アル添酒は蒸留酒?

外国の人々に日本酒について説明する際、当然のことながら様々なチャレンジがつきまとう。まず第一に「言語」。日本語の言葉は覚えるのがとにかく難しい。それから次に等級の定義、つまり本醸造・純米・吟醸・大吟醸の違いとは何かを理解してもらうのに時間がかかる。どうして米を削るのか、削れば削るほどどんな影響が出るのか、ということから始めなくてはいけない。そして外国人にとって特に事を難しくしている理由の一つが、純米の酒とアル添の酒の違いだ。
 僕は通常、費用のかかっていない日本酒には経済的な理由でアルコールが加えられていると説明している。これは理解してもらいやすい。しかし吟醸レベルの話に入り、吟醸酒と純米吟醸酒の違いを話し、吟醸酒にはごくわずかだが蒸留したアルコールが加えられること、そしてそれは技術的な理由で行われるということを口にした途端、人々は困惑の表情を浮かべながら「安価な酒には経済的な理由で、高品質なものには技術的な理由?」と返してくる。
 アメリカでアルコール飲料を輸入するには、かなり複雑な法律を相手にしなければならない。ワイン、ビール、スピリッツの税率はそれぞれ異なっている。そしてなんと純米の酒とアル添の酒の税率も大きく異なっているのだ。アル添の酒には少量でも蒸留されたアルコールが加えられているために、アメリカの法律のもとでは醸造酒とはみなされず「蒸留酒」として扱われてしまうからだ。
 アメリカでは純米系のものしか輸入できないという話を聞いたことがあるが、それは正しくない。アル添の酒も輸入はできる。ただ馬鹿高い税金がかかってしまうのだ。そしてただ輸入するだけならあまり価格も問題にならない。でも輸入業者、卸問屋、そして小売店を経て消費者の手に渡るころには値段はいったいどれだけはねあがっているか。
 日本では買いやすい値段で売られている本醸造が、アメリカでは高い税をかけられ不合理にもやたらと高い値段で売られてしまうこと、またもともと高い値で設定されている大吟醸はこのような税をかけられても比較的あまり影響を受けない、ということも重要なポイントだ。
 しかしここでひとつ取り上げたいのがポートワインのことだ。ポートワインは日本酒のアル添のように、ワインにアルコールが添加されているものだ。そして確かにワインとは税率が異なっているのだが、その違いははっきり言って微々たるもので、しかも「蒸留酒」とは見なされていない。ポートワインには「強化ワイン」とされ、フェアで正当な扱いを受けている。ならばどうして日本酒のアル添はこういう扱いを受けないのか? 今でさえ消費者に違いを説明するのが難しいのだから、当時、日本酒に関する法律がアメリカで制定された際、日本酒の種類を説明、もしくは翻訳した人々がうまく伝えきれず、お役人たちは十分理解しないまま、アル添はじゃあ蒸留酒だなと思ってしまったに違いない。まぁ、これは完全に僕の自論なのですが。
 しかし消費者にとっては高かろうが何だろうが「おいしければいい」のであり、こんな法律のことで愚痴を言わなくてはならないなんてつまらない。僕はただ、純米系のすばらしい日本酒が次々とアメリカに送られている現在、異なる味わいで楽しめる、高い技術によって産み出される吟醸酒ももっと輸出しやすくなれば、さらなる日本酒のファンを開拓できるのにな、と思っているのだ。
(ジョン・ゴントナー:日本酒ジャーナリスト)

月刊 酒文化2005年01月号掲載