白ワインの飲み方

 白ワインには魚の生臭さを除去する効果がある。フランスは基本的に肉食の国で、海産物もカキ、エビやカニなどを珍重するが、魚の「種類の多さ」、「活きの良さ」、「包丁の入れ方」、「料理方法」では、基本的にはサカナを食する日本が圧倒的に上である。それ故、二ツ星、三ツ星クラスの有名な魚料理店に行っても、日本人の目から見れば、サカナに飛び切りの「活きの良さ」がなくて、料理にもどこか「魚臭さ」が感じられる。だが逆に言うと、そこに白ワインが活躍する余地がある。
 白ワインは葡萄を一回だけ醗酵させる醸造法で、基本的に若いワインを冷やして飲む。軽やかな舌触りは、サカナだけでなくカキやエビ、クリーム・ソースや野菜にも合う。アスパラガスとの相性も抜群だ。ロアール河流域のムスカデ、サンセール、プイイ・フメというワインが値段も手頃で、レストランで一本一五〜二五ユーロ(二〇〇〇円〜三五〇〇円位)、口当たりもさっぱりしていて日常的に良く飲まれている。また、ブルゴーニュ地方のシャブリ、プイイ・フイッセというワインも爽やかで口当たりが良く、上品でおいしい。
 ブルゴーニュは有名なワイン生産地で、「厳格な現産地統制名称(AOC)」「品質管理」がされていて、品質に等級が付く。日本でも有名なシャブリを例にとれば、等級のないシャブリ、一等級(ル・プルミエ・クリュ)、特等級(ル・グラン・クリュ)と三クラスあり、それに応じて値段も違う(レストランで、夫々四〇ユーロ、一二〇ユーロ、二〇〇ユーロ。酒屋で買うと四分の一から二分の一)。その差は結局何で生じるかというと、葡萄の樹齢だ。同じシャトー(ワインメーカー)で、特等級と一等級の違いは、三〇〜四〇年の樹齢の木の葡萄か、二〇〜三〇年の樹齢の木の葡萄かによる。
 白ワインの最高峰は、このブルゴーニュのモンラッシュ村でとれるワインであろう。三つの銘柄がある。バターニュ・モンラッシュ、シャサーニュ・モンラッシュ、プリニュー・モンラッシュである。その中でもプリニュー・モンラッシュには、この世にこんな美味い白ワインがあったかと「目から鱗」のワインがある。高貴な香り、繊細な口当たり、トパーズ色の輝き、上品な残り香。このクラスになると、白ワインでも一〇年くらいは貯蔵可能で、五〜八年くらいが飲み頃だ。
 その傍のムルソーという地域では、「白は軽い」という常識に反して、「鉛のように重い」白ワインが造られている。ここにも等級があって、特等級になると、「重くて上品」という矛盾を孕んだ表現でしか表せない、味が想像できないようなワインがある。このムルソーの上物に出会うと、日本の酒好きは、僕と同様、間違いなく「ハマって」しまうと思う。
 白ワインで、ムルソーと並んでもう一つ「ハマリ」系ワインがアルザス地方にある。それは「重さ」ではなく、独特な匂いと旨味で「ハメ」られる。ゲベルストラミネールである。その琥珀色に近い、黄色味を帯びた透明感は何とも言えず美しい。白ワインには普通強い香りはなく、微かな植物性の芳香を嗅ぎ取れるだけだが、ゲベルストラミネールは動物性に近い麝香のような強い香りを発する。また味も、酸味と甘味と渋みと苦味の四つをぶつけ合った複雑で濃厚な構成で、冷えた時と温かくなった時で味が大きく変化する。味の解読に夢中になり、味の変化を追うのにまた夢中になってしまう、不思議な白ワインである。
(つぼいよしはる:パリ政治学院客員教授、パリ在住)

月刊 酒文化2004年09月号掲載