スュッド・ウエスト(南西)のワイン

 現在、フランスでは南西のワインの評判が高まっている。この場合、南西という地域を地理的に説明すると、トゥルーズやカルカッソンを中心とした地中海とスペインに近い地方を指す。別の言い方をすれば、ボルドーより南で、アヴィニオン、ニームとマルセイユの線から東がプロヴァンス地方と呼ばれているが、その反対側の西の地方を指すと言っても良いだろう。では、何故、この南西地方のワインが評判を取っているのだろうか。理由は三つある。
 一つは、品質とか価格の関係が「正直」であるということが挙げられる。ボルドーとブルゴーニュのワインの値段が高騰して、普通の人が日常生活で飲むには手が届かなくなったという事情が背景にある。つまり、五〜一六ユーロ位(日本円で七〇〇〜二一〇〇円位)の値段で美味しく飲めるテーブル・ワインということで人気になったのである。確かに、七ユーロのマリダン(Maridans)や一五ユーロで買えるロルトュス(lユ Hortus)という赤ワインは、値段の割りにびっくりするほど美味しい。
 二つ目は、醸造方法が洗練されてきて良質なワインを造ることができるようになったことが挙げられる。というのも、インターネットを中心とする情報革命はワイン醸造にも影響を与えてきていて、世界中のワイン醸造法はほぼ公開されて、誰でもどこででも良質なワインを製造可能になってきたからである。特に、スュッド・ウエストのワイン製造者は醸造方法の改良に懸命に取り組み、他の地方を圧して、一九九〇年代後半から品質を著しく向上させることに成功した。現代的な装置と技術を導入すると同時に、昔からの伝統的な醸造法を部分的にも取り入れ、丁寧な製造が品質向上につながったのである。例えば、ブドウの収穫は手摘みでするが、一度目の発酵は温度管理が自動的にできるステンレス製の現代的な装置の中で行って、二回目の発酵は伝統に従ったオーク材(樫)の樽を使って行う、という方法が採用されたりしている。シラー、グルナーシュ、カリニャンという三つの品種のブドウを混ぜて醸造するのが南西ワインの特徴の一つである。
 三つ目は、フランス料理が現代世界の潮流を受けて、以前よりも甘みが増えていることが挙げられると、友人でワイン専門家のロベール・ヴィフィアンは指摘している。つまり、南西ワインは南の強い太陽光線を受けて、糖度がボルドーやブルゴーニュのワインよりも高いので、現代のフランス料理と若い人の舌によりマッチするのだという。甘みに慣れた若い人たちには、ボルドーやブルゴーニュのワインは酸っぱく感じるという。確かに、ワイン・チェーンとしてパリで有名な「ニコラ」にも、沢山の南西ワインが置かれていて、売れ行きも好調とのことである。
 今パリで一番美味しいとされているレストラン「ル・ムーリス」でも、よく南西ワインが出されている。シェフのヤニック・アレノは三五歳。ワインも大好きなシェフで、ソムリエと一緒に自分の料理にあったワインを探している。彼が創る現代を表現した料理には、確かにボルドーの有名なワインよりも、若い南西ワインの方がより相性が良い気がする。
 一〇月中旬に食べたジビエ(狩猟獣・鳥)の一つの野生鴨(カナール・ソヴァージュ)と、南西ワインのシャトー・ロルティス二〇〇二年は、その肉の野性味とワインのタンニンの強さと甘みの濃さとのハーモニーが抜群で、至極の時間を過ごすことができた。
(つぼいよしはる:パリ政治学院客員教授、パリ在住)

月刊 酒文化2005年02月号掲載