スパークリングな気分

 12月、1月は祝祭のときだ。そんな季節に重宝するのはスプマンテ。クリスマスを始め、1月6日のベファーナまでのイタリアの祝祭の乾杯とともによく連想されるお酒だ。スプマンテはイタリアのスパークリング(発泡性)ワインの総称。クリスマス・お正月のテーブルを華やかに飾るスプマンテは祝いと幸せの象徴だ。コルク栓を抜く時の明るい音、シュワシュワっとグラスの中で立ち上がるあの楽しい泡、高貴な香り、これらすべてが輝かしく、あたりは贅沢な雰囲気に染まる。そしてなによりあの爽やかな喉ごしが気分を盛り上げる。愉快に過ごすことが好きなイタリア人はこのスプマンテが大好きなのだ。
 スプマンテを食前酒やデザートワインとして飲む人が圧倒的に多いが、最近食事の最初から最後までスプマンテで通す人も増えている。特にクリスマス・イブに宗教上の理由から魚を食べるイタリアでは、辛口のスプマンテはぴったりかもしれない。
 クリスマスをどちらかというと静かに家で家族と一緒に過ごすイタリアでは、お正月はそれとは対照的に大騒ぎをする。大晦日から元旦にかけてイタリアの各地の広場でコンサートやイベントが行われ、町が活気に満ちあふれている。レストランは夕食を楽しむ人で賑わう。そして一一時頃になると、家で夕食を済ませた人たちも、スプマンテを手に広場に集まる。夜中の一二時に近づくと盛大なカウントダウンが始まり、テンションも上がる。トレ、ドゥーエ、ウーノ(3、2、1)……ゼーロ!(零時!)になった途端スプマンテのコルク栓を飛ばし、いっせいに乾杯。そしておびただしい数の花火が打ち上げられ、爆竹が鳴り響く。
 日本で迎えた初めてのお正月の時、テレビで、お餅を食べて亡くなった人のニュースを見て驚いたものだ。イタリアでも元旦の日に同じようなニュースが流れるが、死亡原因はなんと花火なのである。それからお正月にまつわるもう一つの変わった習慣としては、古いものを家の窓から投げ捨てるというものがある。この危ない(!)習慣はまだナポリに残っているらしい。 
 そもそも保守的なイタリア人だが(町で外国のワインを売っている酒屋が片手の指で数えられる程だ)、ユーロ導入による値上がりからますます国産のスプマンテを好むようになり、シャンパンの消費量がさらに下がった。昨年お正月の時期にイタリアで消費されたスプマンテは8000万本にも上る。アスティで有名なガンチア社はそのうちの2000万本を占め、イタリアにおけるスプマンテ売上の第一位である。このアスティとフランチャコルタはイタリアの二つのDOCG発泡性ワインである。
 イタリアのお正月料理は、地域によって多種多様であるが、一般的なのは、「ザンポーネ」といって、豚の足に詰め物をした大きなソーセージと、レンズ豆の煮込みである。レンズ豆はたくさん食べればお金が貯まるという、縁起をかついだ物だ。それにクリスマスやお正月にしか食べない伝統的なクリスマスケーキもある。一一月に入ってからスーパーの棚にパネットーネ(ドライフルーツとレーズンが入ったスポンジケーキ)とパンドーロ(シンプルなふんわりとしたスポンジケーキ)が並び始める。このパネットーネやパンドーロと甘口のアスティはイタリアでの定番の組み合わせだ。
 スパークリングワインを楽しむのに特別な日は要らない。人生そのものが特別であれさえすればいいのだ。
(シェイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2005年02月号掲載