本場のリモンチェッロ

 先日イタリア人の友人に手作りのおいしいリモンチェッロをもらった。最近ローマでもリモンチェッロを家で作る、またはデザートなどの材料として使う人が多い。リモンチェッロとはイタリアのアマルフィ海岸、ソレント半島、カプリ島付近一帯の伝統的な食後酒で、地中海のレモンの芳香が楽しめるリキュールである。アルコール度数が通常32〜34度と高く、イタリア全土のレストランやバーで販売されており、そして南を始め、イタリア各地の家庭の食卓を飾る一品である。昔は南部イタリアでしか知られていなかったリモンチェッロは、現在中部イタリアはもちろん、北イタリアやヨーロッパなどでも人気が高い。
 リモンチェッロはレモンの皮を90度以上のアルコールに1〜2週間漬け込み、水と砂糖を加えることによって作られる。そのリモンチェッロの秘訣は素材のレモンにある。
 リモンチェッロは地中海の温暖な気候の下で栽培されるアマルフィやソレント産の上質なレモンを使用。ソレント産やアマルフィ産のレモンは普通のレモン(イタリアでシチリア産のレモンが一般的)と異なり、サイズが普通のレモンの二倍で、皮も厚く、ごつごつした感じである。その皮に普通のレモンより多くのエッセンシャル・オイルが含まれており、レモンそのものの爽やかな香りが強い。生産量が少ないため、高価なレモンとしてイタリア中に知られている。本場のリモンチェッロの製造には無農薬のレモンが使用され、香料や着色料が一切使われていない。
 リモンチェッロは皮のみを使い、果汁は一切使わない。従って、レモンの香は非常に漂うのに、酸味が少なく、飲みやすいリキュールに仕上がる。作り方は至って簡単だが、手間、暇をかけて栽培したレモンの皮を手で剥くことがポイントだ。皮を手で剥くことによって、皮の黄色くて美味しい部分だけを採取し、白い部分に含まれている余分な苦味が入らないようにしているのだ。
 瓶ごとにフリーザーで冷やし、冷えた小さなグラスでストレートにいただくのは本場のソレントやアマルフィ流の飲み方。南の太陽をたっぷり浴びたレモン特有の爽やかな香味とほのかな苦味、そしてほどよい甘さが絶妙にマッチしそれがほんのりと口の中に広がっていく。暑いときの清涼剤として、あるいは少し食べ過ぎた際に最適とされているリモンチェッロは消化を助けてくれるともいわれるディジェスティーボである。
 南イタリアの大地の恵みが凝縮されたこのリキュールには様々な活用の仕方がある。白ワインで割って、スプマンテやプロセッコと混ぜて、トニックで薄めて、食前酒やロングドリンク、バラエティーにとんだカクテルとして最近はちょっと洒落たバーのメニューに必ず載っている。ジェラート、マチェドニア(フルーツサラダ)やグラニータ(イタリアのカキ氷)にそのままかけて、クッキーなどの生地に練りこんだりしてもおいしい。魚やパスタベースの料理に使用するレストランも最近よく見かける。細かく砕いた氷に注いでフローズン・カクテル風にアレンジするまで、使い方は幅広い。
 リモンチェッロのブームによって、レモンを産出するシチリアやカラブリアのような他の地域も、そのレモンで作って、リモンチェッロとして売り出しているが、アマルフィやソレント産のレモンを使用したもののみが本物とされている。同様に、香料や着色料を使ったものもあるので、購入する際に注意が必要だ。
(シェイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2005年03月号掲載