ワインをスーパーで買うイタリア人たち

 イタリアのスーパーマーケットに足を運んだことのある方はご存知だろう。そのワイン売り場は、広くて品揃えが豊富、多彩なラインアップなどで印象的である。その昔は安いワインばかりを扱っていたこのワイン売り場には最近大きな変化が起きているのだ。
 イタリアのスーパーは、ここ数年、安物のワイン販売店のイメージから、まあまあよいワインを手頃な価格で購入できる場所というイメージに移りつつある。世界経済の落ち込み、ユーロ高などによるイタリア経済の低迷に伴い、イタリアの物価は、食料品・サービスの価格を中心に上昇している。依然としてユーロ圏平均と比べて高めに推移し、個人消費の不振が続いている。そんななかで購買行動にも変化が現れている。食品同様に、昔よりワインの値段に注意を払い始めたイタリア人は、以前はエノテカ(酒販店のようなイタリアのワイン専門店)でしか買わなかったワインを最近近所のスーパーで買うようになった。高額を払いたくないが、そこそこのよいワインを手に入れたいと思うようになったのだ。
 そんな消費者の声に耳を傾け、昔テーブルワインとテトラパック入りのワインしか扱っていないと批判を浴びていたスーパー側も、品質にこだわるようになった。DOCやDOCGのような高質なワインが手頃な価格で売られているのだ。「よいワインはエノテカで買える」というイメージはまだ強いイタリアだが、スーパーのワイン売上高は2001年から2003年まで5.1%増加で138万ユーロに達した。同期の販売量も8.1%増で好調。イタリア国内のワイン売上におけるスーパーでの売上は60%を占める。エノテカで売られているワインの10〜20ユーロの平均価格に対して、スーパーで売られているワインは1〜10ユーロの価格帯に位置しており、お得感が強い。低・中価格帯の商品を選択するイタリアの消費者にとってスーパーは魅力的なのである。
 イタリア国内のワイン消費は長年の停滞と減少から反転の兆しを見せ、2004年に一人当たりの消費量は50Lに伸びた。ワインの魅力と楽しさを再発見した一般消費者にとってスーパーはますます大切な存在になってきている。
 一方、イタリアのワイン生産者は自分のワインをスーパーで販売することに対していまだに抵抗がある。権威のあるワイナリーは、会社のイメージなどを気にして、そのワインを普段スーパーに出さない。この拒絶は高質なワインは生産量が限られていて大手小売店にまわすほどの量がない、または行き過ぎた価格競争は品質低下を招くなどが理由とされる。そして表立っては語られないが、ワインをスーパーで販売していないもう一つ大きな理由は、高級ワイン生産者と密接な関係を持っているレストランやエノテカとの関係の悪化に関する心配なのである。イタリアで高級レストランのワインリストにある高質なワインは小売店で見つけることがほとんどできない。これはイメージ維持の他、お客さんにワインの実際の値段を知って欲しくないと単純な理由を持っている。ワインがスーパーで売られるようになったら、レストランのメニューから降りてしまう場合が多い。
 大手小売店が生産者と協力して流通形態を見直す必要がある。いいワインはスーパーでも買えるように、新しいイメージに合わせて、高品質のワインがどんな展開を見せてくれるのか楽しみにしたい。
(シェイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2005年07月号掲載