オープン・ワイナリー

 去る五月二八・二九日の二日間、恒例の「カンティーネ・アペルテ(オープン・ワイナリー)」がイタリア各地で行われた。Movimento Turismo del Vino(ワイン観光協会)にて毎年五月の最終日曜日に開かれるこの行事は、ワイナリーが一般人を対象に訪問を受けて入れ、各地で試飲やワイナリーの見学を楽しめる。今年で第一三回目を迎えたこの催し物に今年参加したのはイタリア中の約千のワイナリーで、ワイン関連のさまざまな会議やコンベンションが多く開かれた。
 ワイナリー訪問や試飲のほか、アグリツーリスモに宿泊しながら、葡萄畑の周辺をトレッキングや自転車でワイナリーを巡り、ワイン生産者とワインの世界について語りながら、食事をする、クラシック音楽のコンサートを聴きながらワインを啜るなど多彩なプランが企画された。毎年この時期になると毎日のようにワインに関するニュースが新聞やテレビを賑わし、全国がワイン祭り色に染まる。それから今年特に目についたのは、慈善活動の活気であった。
 今年の収益の一部はユニセフのエイズ基金などの慈善企画に寄付されることになり、これも成功の一つの原因と見られる。実際にワイナリーを訪ねて、各種のワインを味わって、好きなワインを購入できるが、今年発売されたワインボトルの売上がアフリカでエイズ治療や予防プログラムやユニセフなどのような他の慈善団体に寄金されることになり、この企画が脚光を浴びた。
 ワイン・デーでワイナリーをまわることによって、さまざまなワインの味を知ることはもちろん、葡萄の育つ環境、醸造過程や生産者の考え方も垣間見ることができ、イタリア文化の一側面に触れることができる。これが原因で毎年「オープン・ワイナリー」に参加する人々のうち、イタリア人のほか、多くの外国人も目立つ。この日を目的にスイス、ドイツ、オーストリア、フランスなどからわざわざイタリアに来る観光客も少なくない。
 毎年人気が増すイタリアでエノツーリズモ(ワインのツーリズモ)の最大イベントとされる「オープン・ワイナリー」に参加した人は今年、昨年より二〇%増え、百二〇万人の参加者にも上った。二日間で約五〇〇〇種類のワインが試飲され、大成功となった。
 ワインに興味を抱いてすでにワインについて知識を持っている人、ワインに興味はあるが、あまり詳しく知らない、ただ単においしいものを食べて、それにおいしいワインを合わせて飲みたい、素人とワイン業界の人とのミーティングポイントでもあったこのイベントは、ワイン生産者の知識や価値観の共有を促進し、一般人にワインのことについてのますます興味を喚起するものなのである。ワインに一番身近な存在で、ワインのことを一番よく知っていて、ワインを一番愛しているワイン生産者なので、彼らに会うことによって一般人もその情熱に触れることができる。作り手の情熱が感じられるワインが成熟するその環境と造られたその葡萄が栽培された土地を自分の目で確認でき、ワインの素晴らしさを肌で感じる貴重な機会である。
 ここ数年、ワインツーリズムに対する一般人の関心とともに、もたらす経済的なメリットやワインへの意識の向上のため、生産者の関心も大いに高まり、こうしたイベントやワインに人生をささげた人の努力の積み重ねが、新たなワインブームを巻き起こすことを信じたい。
(シェイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2005年08月号掲載