ゲブルツトラミナーを追求しながら

 八月末に、ローマの暑さから逃げて、北イタリアにあるトレンティーノ・アルト・アーディジェ州に足を延ばした。この州はイタリアの特別自治州の一つであり、オーストリアに隣接する。かつてはオーストリアに帰属したため、現在もドイツ語を母語とする人口が一定数存在する。特にドイツ系住民の多い北部のアルト・アーディジェ県は別名南チロルとも呼ばれ、長いワイン伝統を誇るイタリア州の一つである。
 アルト・アーディジェと言えばゲヴルツトラミナー! お気に入りの白ワインの一つであるゲヴルツトラミナーを追求して、早起きして早速ワイナリーを訪問。片手にガンベロ・ロッソ誌のワイナリーガイド、ワインを生す葡萄畑が一面に広がる丘陵地帯を駆け抜ける約三〇?の田舎道ストラーダ・デル・ヴィーノ「ワイン街道」を巡り始めた。
 街道の中心にあるSan Michele Appiano(サン・ミケーレ・アッピアーノ)という生産者を訪問。訪れた日は雨が降っていて、外や施設を回れず、中でひたすら試飲。このワイナリーのSanct Valentinのシリーズは全て高品質であるが、ソーヴィニョンはイタリアを代表するワインと言っても過言でないほど優れている。中でも評価の高い「ソーヴィニョン2001」、バリックを使わずにソーヴィニョンの香りを大切に醸造されている。香りは一度嗅げば忘れられない程すばらしく特徴的で、青いトマトやピーマン、杏やマンゴー、パイナップルのようなトロピカルフルーツ、ソーヴィニョン独特の火打石などの香りが非常に豊かである。次は「ピノ・グリージョ2000」、バリックで一一ヶ月熟成され複雑さがあるワインを試飲。口に入れた瞬間、素晴らしい凝縮感、ミネラルの感じがすぐに広がる。イタリア全体の一番優れたピノ・グリージョはここの州で造られていると言われている。
 ソーヴィニョンを含んだ三本ほどのワインを買い、トラミンへ向かった。トラミナーはドイツのブドウと考えられているが、アルト・アーディジェ州にトラミンという村があってそこが起源なのである。現在アルザスの宝物となっている独特な特徴を持つトラミナーという品種は実はアルト・アーディジェ州から運ばれ、アルザスで栽培が始まったのが一五世紀頃であるという。一九七〇年頃には最初にクローンの選別に取り掛かり、それ以来スパイシーなトラミナーという意味の「ゲヴルツトラミナー」と呼ばれるようになった。この品種から和食、中華またはエスニックフードと相性抜群、豊かでパワフルな辛口のワインが造られる。
 トラミン村にあるゲヴルツトラミナーの典型を造る歴史的なケッレレイ社を訪問。特に著しいのはNussbaumerライン。ライチの熟した果実を思わせる爽やかな香りがあり、杏や上品でスパイシーな風味を持つ、余韻の長いフルボディのゲヴルツトラミナーは魅せるワインである。また、ここの赤のラグレインUrbanはガンベッロ・ロッソ誌のトレ・ビッキエーリを獲得した。残念ながら売り切れだったので、試飲できずにボルザーノに向かった。
 ここで赤のラグレイン・ドゥンケルで有名なMuriGries社へ足を運んだ。アルト・アーディジェ州の土着品種であるラグレインの特徴として、軽めに造ったタイプとDunkelというしっかり造ったタイプがあり、色はかなり黒っぽく、濃度だけでいうと猛烈に濃いものがある。味わいは土着品種らしいハーブっぽさ、黒系の果実のテイストであった。
(シェイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2005年11月号掲載