ピエモンテ再発見

 冬季オリンピック開催で関係者に満点をもらったトリノとピエモンテ州は、以前はグルメにしか知られていなかったその素敵な顔を多くの人に見せることができた。
 ピエモンテ州は美食家憧れの地。その州都トリノは、一九世紀中頃にチョコレートの二大発見といわれる「ジャンドゥーヤ」が登場し、チョコレートブームを起こしたところとしても知られている。トリノのカーニバルの仮面から名づけられた「ジャンドゥーヤ」は、ナポレオン政権下の取締りによるカカオ不足を補うために、ランゲ地方の特産であるヘーゼルナッツを混ぜ合わせて作ったチョコレートクリームを用いたもの。トリノ中心部のサン・カルロ広場周辺のチョコレートショップで、もっとも興味を引いているのは伝統の「ジャンドゥーヤ」を始め、ペペロンチーノやショウガなどのような調味料が入った珍しいチョコレート。これは外国人だけではなく、イタリア人にも贈答品として人気だ。
 また「ビチェリン」は、コーヒーをベースにチョコレートと生クリーム、または牛乳を加えた欲張りなトリノならではの飲みものである。
 フランス料理に影響を受けたと言われるピエモンテ料理は、フランス料理と同じような調理方法を用いても、原材料の質の違いからイタリアらしい個性を持っている。伝統的家庭料理のお店のメニューには、子牛肉の薄切りにツナソースをかけたヴィテッロ・トンナートや、アンチョビソースで野菜などをディップするバーニャ・カウダをよく目にする。さくさくとした細長いグリッシーニもトリノの名産品。私が特に気に入った料理の一つはフリット・ミストである。仔牛の胸腺、脳みそ、骨髄や仔羊のリブ肉、きのこに、アマレッティというお菓子や、りんごなどの果物までをカリッと揚げた、トリノならではフライ。こうした地方料理の数々は、もちろん、この地方の誇るバローロやバルバレスコといった銘醸ワインに、まさに絶妙の相性をみせてくれる。
 イタリアワインの「王様」と称えられるバローロ。その代表的な生産者と言えば、フォンタナフレッダ。イタリア統一後の初代国王ヴィットリオ・エマヌエーレ二世の息子が、相続した狩猟地を切り開いて、王のワインといわれるバローロやバルバレスコを生むブドウ、ネッビオーロを植えたのがこのワイナリーの始まりである。同社は、もっとも伝統的な製法のリーダーとして全バローロの約一五%を造っている。
 バローロは、軽く冷やしてから丁寧にデキャンティングをすることで、ブルベーリーの香りとアルコルやタンニンから生まれた深い味わいが存分に楽しめる。料理に使われることが多く、バローロを使った贅沢なリゾット・アル・バローロ、またはバローロの牛肉煮込み、ブラザート・アル・バローロはその代表的なメニューである。
 同州で特にワイン通の間でよく知られている地域はクーネオである。トリノの南に位置し、ネッビオーロ種のぶどう一〇〇%で造られるバローロやバルバレスコ、バルベーラなどの産地がある。また、世界三大珍味の白トリュフの名産地アルバも、クーネオにある。ここでは毎年一〇月に、世界中から食通が必ず訪れるというトリュフ市が開催される。チーズでは、高地で作られるカステルマーニョやこの地方の羊の乳で作られるムラッツァーノなども有名。「贅沢なグルメ地方」ピエモンテを再訪するまで、辛抱強く待とうと思う。
(シェイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2006年05月号掲載