ピザに合うワイン

 イタリアといえばピザが頭に浮かぶ。ピザはイタリア料理の定番だ。
 金曜日の夕方、仕事帰りに友達とわいわいしながら楽しむピザ。時間のないお昼休みの彩りのスライスピザ。外が雨で、日本みたいに色々な出前のなかから選べないので、宅配のピザを頼む週末の夜。イタリアの食生活と社会に深く浸透したピザは、イタリアではパスタほど、もしかすると楽しさを連想することによってパスタ以上に愛され、食べ続けられている。
 アメリカピザとまったく違うイタリアのピザには、最近使用されている材料が増え、昔より種類がずいぶん豊富になった。とは言え、まだまだ相当シンプルである。イタリアのピザにはナポリ風の縁が厚いもっちりした食感のピザに、さくさくとしたローマの薄いピザ、分厚いフォッカチャにヌテッラ(ピエモンテ州のチョコクリーム)をかけてデザートのつもりで食べるピザなど、色々な種類がある。
 何に関してもそうかもしれないが、イタリア人は特に食べ物と料理には真剣で、かなり保守的である。この傾向はピザに関しても同じだ。イタリアではどの飲み物どの食べ物と合うか合わないかについて明確な意見を持つ人が多い。「カップチーノを食後に絶対飲んではいけない!」と主張するイタリア人は、ピザとワインという組み合わせに普段眉をひそめる。食生活に頑固なほど保守的な彼らは、ピザとはだいたいビールかコーラを飲む。この組み合わせの論理的な説明はないが、ピザをワインと飲まない理由として、今までそのようにし続けられてきたことが一番確かである。
 イタリア人は慣れているものしか食べないし、どんな料理にでもワインを合わせることができる外国人と違う。だからワインの国であるイタリアに住んでいるにも関わらず、料理と組み合わせるワインの選び方に苦労することがある。
 最近ソムリエなどが、ピザとワインの相性について書いたり勧めたりしている。白ワイン、赤ワイン、ロゼ、スパークリングワインとまで組み合わせ範囲が広い多芸多才なピザ。フルーティーで軽い白ワイン、またはアルコール度が低く、酸味のしっかりした飲みやすい赤ワインが最も適切であるといわれている。
 ただ、イタリアではその産地でとれる食材とその食材で作られた料理に、同じ土地で育ったブドウから生産されたワインを合わせたほうが、両方の味が強調され、最適な組み合わせとされている。そのため、昨年南のナポリピザを北のプロセッコ・ディ・ヴァルドビャデネと組み合わせることが、ソムリエやシェフによって批判を浴びたこともあった。
 ピザにワインを合わせる際、好み以外に気をつけなければいけないのはトッピングである。たとえば、シンプルなマルゲリータと相性がよいワインはデリケートで清涼感のある白ワインであるらしい。また、ローマ風のピザにエレガントでまろやかなやさしい味わいの白ワイン、ナポリ風のピザにバランスが取れた酸味の強い白ワイン、魚介類のペスカトーラには爽やかな酸味、フレッシュ感のある後味すっきりの白ワインまたはロゼのワインが合う。
 今度イタリアのレストランでピザを注文する際に、周りのテーブルを見渡してみてほしい。ピザにワインを合わせて飲んでいる人たちの間に、イタリア人もいる可能性が十分高いのである。
(シェイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2006年06月号掲載