アックアミネラーレ

 イタリアのレストランで席につくと最初に「とりあえず水を持ちましょうか。どの水にしますか」と聞かれる。お水は最もシンプルで庶民的なところでも必ず三種類ほどは置いてある。炭酸入りの水、炭酸なしの水、そして微炭酸のお水である。微炭酸というのは炭酸を追加していない採水時からガスを含んだ天然水のことを示している。最近は発泡性のほか、水を採水地別・硬度別などでカテゴリー化をして、意識して選んでいる人や、これらのカテゴリーに分けて一〇種類以上のお水を置いてあるレストランが増えている。また最近ローマやミラノで見かけるのは、お水メニューを出しているレストラン、そしてお水のこと勉強しながら水を楽しむお水バーである。
 イタリア人はそもそも水へのこだわりが強い国民である。イタリアの水道水は全国で飲めるにもかかわらず、ミネラル・ウォーターを購入する人が殆どであり、イタリア国内の消費は約一二〇億本にのぼる。イタリアには二五〇種類のミネラル・ウォーター、そして七五〇以上のミネラル・ウォーターのラベルがある。
 一口にミネラル・ウォーターと言ってもいろいろな種類がある。まず含まれるミネラルの量によって、硬度が高い硬水と硬度が低い軟水の二種類に分けられる。
 硬度は、ミネラル・ウォーターに含まれているミネラルの量、特にカルシウムとマグネシウムの合計量を数値化したもので、味に大きく影響している。イタリアの規定においては、さらに細かく、軟水、中硬水、硬水、超硬水と四つに区別されている。これらによって味が大きく変わり、食べる料理との相性も左右される。硬度〇〜一〇〇の軟水は、カルシウムとマグネシウムの含有量が少なくて、くせのない味。素材のうまみを引き出すので、お茶類に一番適しているとされており、魚、野菜やデリケートな料理に合っているとされている。中硬水(硬度一〇一〜三〇〇)、イタリアでオリゴ・ミネラル・ウォーターとも言うが、ミネラルをほどよく含んでおり、全体的なバランスがよく取れている。微炭酸水の中硬水ミネラル・ウォーターは魚やチキン、あっさりとしたパスタなど、繊細な味わいの料理と相性が抜群である。硬水(硬度三〇一〜五〇〇)や超硬水(硬度五〇一以上)はカルシウム、マグネシウムの含有量が多く、ミネラル補給のために飲むのに最適である。一方、硬水の微炭酸水または炭酸水はチーズ、お肉やこってりとした料理と一緒に飲むと口をさっぱりさせ、料理をおいしく感じさせるのである。
 レストラン以外でも状況によってお水をちゃんと使い分けるイタリア人は、これからの暑い季節に口の中で広がるガスで清涼感を高めてくれる炭酸水を愛飲している。
 ワインと同様に、お水の温度も重要で、炭酸なしの水は八〜一〇度程度、炭酸入りのお水は七度ほどの温度でのサービスが最適とされている。
 ごく最近、水ソムリエ認定証を目にするようになったイタリアでは、ミネラル・ウォーターと料理の相性研究や、一般市民への普及を目的しているミネラル・ウォーター試飲者協会が二〇〇二年に設立された。この協会は水ソムリエを始め、さまざまな水試飲コース、イベントなどを開催していて、そのホームページで各イタリアの水と料理の相性が詳しく掲載されている。
 これからは、ミネラル・ウォーター選びに、ワイン選びのような注意を払うようになるかもしれない。
(シェイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2006年07月号掲載