ビールとサッカー観戦で盛り上がる

 イタリアで暮らすと生活がサッカーに左右される。熱狂的なサッカーファンが多く存在するイタリアでは、交通手段のストライキだけではなく、地元のサッカーチームの試合やワールドカップのような大きな大会がある日を常に確認しなければいけない。イタリアの試合がある時は街に人っ子ひとりいなくなり、お店まで閉まったりするからである。先日フィレンツェからイタリア対アメリカの試合が行われる夜に電車で帰ってきたら、運転手も含め皆自宅で試合を観る準備をしていて、ローマ中央駅の乗り場でタクシーを一時間も待った。
 セリエAの不正疑惑で揺れるイタリア代表チームのアッズーリが、どの程度の活躍を見せられるのであろうか、と思って今回試合を見る人も多ければ、私のように、次の日に町中の話題に必ず試合があがるため、仲間との会話に困らないために試合を見る人もいる。試合直後は広場や大通りに人が出て、クラクションを鳴らしたり、国旗を振り回したり。サッカーファンでなくても、窓を開けていれば、ご近所からの歓声や悲鳴で、試合結果はおのずとわかる。
 人との付き合いを非常に大切にしているイタリアだが、「何か食べに行こうね」と誘われることがあっても、日本みたいに「飲みに行かない?」という表現はまずない。日本のような居酒屋はもちろんないし、イタリア式のバールといっても、これは夕方につまみと一緒にアペリティーヴォが取れるが、基本的に西洋のバーと違い、お酒ではなく、コーヒーを飲むところである。日本で仕事などの関係で毎晩のようにお酒を飲んでいた筆者だが、イタリアに来てからその頻度が減らなくても、食事と一緒に一杯か最大に二杯しか飲まなくなったので、飲酒量が大幅に減った。イタリア人はよくお酒を飲む国民というイメージをどうしても持つ日本人だが、食事の際にワインを一杯くらいしか飲まない人が多く、酔っ払っている人が疎外され、また私の友達には、日本人のようにお酒全く飲めないイタリア人も数人いる。
 日本同様に、社交の場でお酒を飲むことが多いイタリアでは、どちらかというとお酒を楽しむために飲むのではなく、仲間と一緒に楽しんでいるから酒を飲む人の方が多い。食事と一緒にお酒を飲む割合が圧倒的に高いイタリアだが、スポーツ観戦、いや、サッカー観戦の時にはビールを飲む。イタリアで食事と一緒に一番よく飲むお酒はワインだが、ある調査によると、食事と一緒にとらないで、独自で飲む飲み物の首位を占めるのはビールである。同調査によるとイタリア人が一番よくビールを飲むのは友達と遊び、仲良く交際する時である。冷やして飲むビールの消費量はやはり夏季に増大するが、特にサッカーワールドカップ大会のようなサッカーイベントの際にビールメーカーを喜ばせる。ビールをグビグビ飲みながらのサッカー観戦が大好きなローマっ子たちは、試合前にスーパーでビールを買っている姿よく見かける。スポーツバーなどの飲食店より、自宅で生中継でサッカー試合を見るパターンが一般的。
 イタリアの新聞や雑誌は「イタリアは逆境の時ほど強い」と書いている。つまり、スキャンダルの後でサッカーが信用されていない今こそ、アッズーリは頑張るであろう、と言っているのである。これからはそれを信じて、テレビにくっ付いてビールを楽しみながら白熱するサッカーを観戦し、イタリア代表の突破を望むことにしよう。
(シェイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2006年08月号掲載