エノテカ・レジョナーレの活動

 イタリアといえばローマ。イタリアといえばワイン。が、ローマといってもなぜかすぐにワインが思い浮かばない。
 これを払拭するためにラツィオ州が努力を重ねている。フラスカティとEst!Est!Est!以外に殆ど知られていないラツィオ州のワインや食品についての知識を増やすために、二〇〇四年の年末にエノテカ・レジョナーレラツィオ、つまり州立エノテカ「パラティウム」を設置したのだ。スペイン階段や高級ショッピング通りのコンドッティ通りからもほど近いこの施設は、ラツィオ州の農業発展局ARSIALが経営。野菜や果物、チーズ、オリーブオイル、ワイン、蜂蜜など地元の農作物や伝統的な料理の推進の舞台として大活躍している。ARSIALは、数年前からワインのプロモーション活動だけでなく、ラツィオ州におけるブドウの栽培を改善するためのブドウ種類の復旧や品質改善、ワイン生産における新技術の導入などの企画を援助している。
 ワインや食品推進の目的で生まれたこのレストラン兼エノテカは、ラツィオ州のワインだけが置いてあり、昼食やディナーに利用できるほか、一日中軽食とともに軽く一杯ができるカジュアルなお店。できて以来、多数のイベント、試食・試飲会、講演会、本の発表会、ワインや料理の集中講座の開催の場として、そしてラツィオ州のお酒と料理文化の演出の空間として機能している。
 ここの料理のスーパバイザーを務めているのは、伝統的で庶民の味のローマ料理を独創的に解釈し、新しいイタリア料理を創り出しているイタリア料理界で最も注目を集めているイタリア人シェフの一人、アントネッロ・コロンナである。ラツィオ州生産のワインが占めるワインリストは毎週更新され、ソムリエにより厳選された同州の各種ワイン(スプマンテ、赤ワイン、白ワインおよびデザートワイン)の手ごろなグラスワインとボトルに分かれている。
 ローマっ子にも殆ど知られていないラツィオ州のワインを取り揃えているこのエノテカは同州のワインに関する偏見をなくすだけではなく、情報普及といった重要な役割を果たしている。飲んだワインや食べた食品をその場で購入できる仕組みになっている店内は、テーブルや長いカウンター、現在の一六の画面のほか、あらゆる食品やお酒の生産過程や詳しい情報が検索できるコンピューターシステムも近いうちに導入される予定。
 同店には、できた頃に本格的なディナーに行こうと思っていてもなかなかいけなかったが、つい先日この念願がかなった。ワイン通から観光客まで賑わい、追い風に乗っているこのエノテカのメニューは、ローマ初の国際映画祭開催をきっかけに、映画に登場したメニュー、監督や俳優のお気に入りの料理、ローマを舞台とした映画などからインスピレーションをもらって、映画祭期間のみ特別に映画関連メニューを提供。フェリーニやショーン・コネリーなどに関連した七つの映画のテーマメニューが用意され、それらはラツィオの農産物を使ってアレンジされていた。映画の懐かしいシーンが流れている背景の大画面を見ながら、ラツィオ州のワインを発見し、ラツィオの厳選された食材を使ったバランスのよい料理を、どれもおいしく楽しくいただいた。
 既に計画的に実施された様々な活動のおかげでラツィオワインの州内外の売上額や評判が上がり、パラティウムに強い見方を見つけた。
(シェイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2006年12月号掲載