カンパリ

 イタリアライフスタイルを代表するアペリティーヴォにリキュールは欠かせないが、なかでもカンパリは別格である。美しい赤色のリキュールで、その苦みが特徴的。イタリア語ではビターリキュールという意味のアマーロ(amaro)という。
 カンパリは1860年にガスパーレ・カンパリ氏によって作られた。創始者の名前を持っているリキュールである。1904年にカンパリ氏の名を持った会社がミラノで成立され、その後同社はほかのポピュラーなお酒も発明した、世界で最も有名なお酒会社の一つとなった。商品をスピリーツ、ワイン、ノンアルコール飲料と三つのグループに分けているカンパリ社は、イタリアで上場企業であり、カンパリを始めとして、商品を世界190各国に輸出しているグロバールな企業である。1999年にイタリアの歴史的なベルモットのチンザノ社を買収し、さらに拡大した。
 柑橘系との相性が抜群、アルコール度数が24度ある香草系ビター風なカンパリの原料配合比率は門外不出の秘密だが、専門家の分析によると、ビターオレンジ果皮、キャラウェイ、コリアンダー、シナモンなど、30種類以上のハーブとスパイス類を煮出し、スピリッツを加え、15日間タンク熟成されるレシピだという。これに水、砂糖、アルコール、着色料を加え、さらに1ヶ月熟成の後、濾過して瓶詰めされる。カンパリは発売されてすぐに話題となり、1932年に発売されたイタリア国内向けに小さな円錐形で、ラベル無しの透明ガラスのデザイン小瓶入りのカクテル、カンパリソーダが大ブレークし、不動の人気を築いた。
 カンパリは、1900年代の初めに昼食や夕食の前に友達と集まり、お酒をおつまみと一緒楽しむアペリティーヴォタイムの普及とともにその主役を務め、70・80年代に金時代を迎えた。特にミラノやトリノなど北イタリアで今も人気が高く、美しい鮮紅色で情熱と太陽の国イタリアを連想させるお洒落なリキュール。特にカクテルベースとしてよく使われていて、イタリア人にバーや自宅で愛飲され続けている。
オンザロックとしても飲めるカンパリは、カンパリソーダ、カンパリオレンジ、ネグローニやアメリカーノなど定番カクテルのベースとして広く使われ、バーには必須の一本である。カンパリはオレンジやグレープフルーツジュースで割っただけでも美味しく、家に一本あると重宝する。ポテトチップス、オリーブやサンドイッチなどつまみと一緒にいただくことが多い。
 ところで、イタリアは太陽をいっぱい浴びたおいしい柑橘類の国だ。にもかかわらず、グレープフルーツはあまり人気がない。日本で人気上昇のスプモーニ(カンパリにソーダとグレープフルーツジュースを加えたロングカクテル)はイタリアのカクテルと思われているが、実はそうではない。その一方、日本であまり知られていない飲み方はカンパリ・コン・イル・ビアンコ(カンパリを白ワインで割って飲む習慣)である。
食前酒やロングドリンクとして飲まれることの多いカンパリだが、イタリアでは食中、また食後に飲むことはない。食後酒として飲まれているほかのアマーロ(苦い食後酒)とは区別すべき。
 そして、カンパリは特に夏季にピッタリで、昼間でも夜でも好きなときに飲めるので、大変重宝する。あなたもカクテルとして小瓶に入ったカンパリソーダや、簡単に作れるカンパリカクテルでイタリアンアペリティーボを演出してみてはいかが。
(シエイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2007年02月号掲載