ブダペストでリサイクル

 ブダペストには日本のような大型チェーン店によるコンビニエンスストアは無いが、パンや牛乳、ハムにチーズなどのちょっとした食料品やスナック菓子、タバコなどを売る小さな個人商店が、店によってはスーパーマーケットなどより遅くまで営業している。中には24時間営業しているところもあり、近所に一軒あるととても便利だ。たいていの店ではビールやワインなどアルコールも売っていて、友人の家に集まって飲んでいる時、夜中にお酒がなくなっても購入する事が出来る。また、ハンガリーでは家に招待された際などに、手土産としてワインを持っていく事が多い。これらの個人商店は市場や専門店が休業となる土曜日の午後や日曜日にも営業しているので、急に夕食に招待された際などでもワインを買う事が出来る、なかなか頼りに出来る存在なのだ。
 店でワインを買う場合、返却可能なボトルについては、レジで精算をする際に自動的にボトル代が定価に付け足される。飲み終わった後の空のボトルを店に持っていけばボトル代は返ってくる。ただハンガリー産のワインボトル、それも一定の型に限っているので、外国産のワインのボトルや、ハンガリー産でも形の少々違う高級ワインのボトルなどは返却する事が出来ない。他にもビールのビンやハードタイプのミネラルウォーターのペットボトル、フルーツシロップやウォッカのボトルも形によっては返却可能だ。その分を前金で支払っているだけあって返却率は高い。
 返却の出来ないボトルなどは残念ながらゴミとなる。ハンガリーではゴミの分別が無いので生ゴミも紙くずもビニールもすべてひとつのゴミ箱に捨てられる。分別に慣れている日本人にとっては抵抗が強い。それでも2004年にEUに加盟して以来、EUの規定に沿ってブダペスト市内でもリサイクル用の大人の背丈ほどもある巨大な回収箱が市内各所に設けられている。回収されるのは、透明なビン、色のついたビン、缶、ペットボトル、古紙の5種類。ハンガリー産以外のワインやビールのビンはここに捨てられるのが理想的だけど、回収箱がただのゴミ箱となり家庭ゴミが捨てられていたり、箱に入りきらないダンボールがそのまま放置されていたりと、まだまだリサイクルに参加している人口は少ないように見えるのが少々残念である。
 EUの加盟と同時に我が家の近所にも設置された回収箱、それぞれの資源ごみによって色の違う5基が並んでいた。去年のある日、いつものように資源ゴミを捨てに行ったら、回収箱のひとつがクレーンに吊り上げられ宙に浮いていた。びっくりして眺めていると5基すべてが次々とトラックの荷台に積まれていく、資源ゴミの回収作業にはどうにも見えない。トラックの運転手にわたしの持っていった資源ゴミは引き取ってもらったが、以来、その場所にあった回収箱は撤去されたままだ。数週間後、しょうがないからと通っていた別の場所の回収箱も撤去されてしまった。今では一番近い場所でも歩くと20分かかる、しかもその場所では新築のマンション建設が進んでいて、ここも時間の問題かもしれない。ボトルなどは意外にたまるのが早く、運ぶだけでも一苦労、仕事で忙しいときなどはリサイクルをしようとする気持ちがついつい萎えてしまいそうになる。せっかく設置した回収箱、EUに無事加盟を果たしたら撤去していいものなのだろうか? おおいに疑問が残るのである。
(すずきふみえ:フォトグラファー・ライター、ブダペスト在住)

月刊 酒文化2007年05月号掲載