パーリンカ新世紀

 ハンガリー人が愛する果物の蒸溜酒「パーリンカ」、特に「ハージ(自家製)・パーリンカ」と言う言葉には、手前味噌な思いがたっぷり込められた響きがある。ハージ・パーリンカを客人のショットグラスに注ぐハンガリー人の顔には、それが自分でつくったものであっても、田舎に住む友人や親戚から手に入れたものであっても、どこか自信に満ちた微笑が浮かんでいるだろう。そんな庶民の酒、パーリンカ、EU加盟以来、規制が厳しくなり自家製造をする家庭が少なくなっている事は以前書いたが、それとは逆に蒸溜所がつくるパーリンカが、ちょっとした高級な酒として出回るようになってきた。
 プラムやアプリコット、そして洋ナシ、りんご、チェリー、ブドウなどからつくられるパーリンカはもちろんだが、蒸溜所の製造するパーリンカは、定番のパーリンカ以外にも様々な種類がある。ラズベリー、黒すぐりの実、マルメロの実、エルダーフラワーなどなど、ありとあらゆる果実からパーリンカがつくられているのだ。蒸溜酒なので果物の絞り汁のような強烈な味がするわけではないが、それぞれの果実が蒸溜酒に残す香りには個性がしっかりと表れている。時に意外性もあり、新しい風味を発見できるのも楽しい。
 ブダペスト市内にもパーリンカの専門店が数年前からいくつかオープンしている。ハンガリーに点在する様々な蒸溜所から仕入れてくる豊富な種類のパーリンカがずらりと並び、ワインショップ同様、ちょっと見ただけでは簡単に選べないほどだ。手のひらサイズの小瓶のパーリンカを製造している蒸溜所もあり、少しずつ味見をしてみたい人や、ギフトを探している人に喜ばれている。数ある蒸溜所の中でもトップクラスなのは二〇〇二年に製造を開始したアガールディ・パーリンカ蒸溜所、歴史は浅いが、すでにオーストリアでの蒸溜酒のコンテストで賞を取るほどの上質なパーリンカをいくつもつくり上げている。
 ブダペスト市内で開かれるワイン・フェスティヴァルにも、パーリンカ蒸溜所は出店するようになり、ふだん味わう事の出来ない、珍しいパーリンカが気軽に試せるとあって人気を集めていた。そして二年前からは、パーリンカ・フェスティヴァルも開催されるようになった。度数の高いパーリンカはワインのようにいろいろな種類を試飲するのは難しそうだが、ハンガリーの伝統料理の楽しめる屋台も出て多くの人々で賑わっていた、ハンガリー人はイヴェント好きでもある。
 各蒸溜所ともボトルやラベルのデザインにも凝っている。シックなデザインのラベルの貼られた細身なボトルが、モダンなレストランやバーのカウンターやショーケースに並ぶ、なんだかパーリンカとは思えないほどのスタイリッシュな雰囲気まで漂っている。二一世紀、田舎の親戚がつくるハージ・パーリンカの対極にあるのは、洗練された都会のパーリンカなのである。
(すずきふみえ フォトグラファーー・ライター、ブダペスト在住)

月刊 酒文化2008年03月号掲載