ユーロ導入間近のスロヴァキア

 ハンガリーの北に位置する国、スロヴァキア。カルパティア山脈の一部であるタトラ山脈が横たわり、森林が多く、緑深い美しい自然を誇る。ハンガリー王国の領土だった歴史もあり、国境周辺にかけては今でもハンガリー人の住む町や村などが点在しハンガリー語も耳にする。二〇〇四年、ハンガリー、チェコ、ポーランドなど一〇ヶ国がEUに加盟した時には、比較的目立たない存在ではあったけれども、外国の企業や投資の誘致に成功し、その経済は大きな発展を遂げた。そして二〇〇九年には現在の通貨スロバキア・コルナからユーロへ切り替えが決定している。財政赤字やインフレ率を一定の範囲内に抑えるなど、ユーロ導入のための基準を満たす事が出来ず、ユーロ導入が当初の予定より遅れているハンガリーやチェコなどを差し置いて、すべての条件をクリアして周辺諸国のどこよりも早いユーロ参加となった。
 物価の上昇はもちろんあったが、インフレの激しいハンガリーに比べると、スロヴァキアの物価はまだまだかなり格安に感じる。一ユーロ=三〇・一二六〇コルナの換算レートが決定し、ユーロ導入の準備期間として、値段はスロバキア・コルナだけでなくユーロの併記や、換算レートのポスターを貼る事が義務付けられている。九月初めに訪れた時には、大手スーパーの商品はもとより、村のレストランのメニューからアイスクリーム屋まで、ほとんどの商品にきちんとコルナとユーロの二重表記がされていた。ユーロで値段を見ると、さらに物価の安さが際立つ、村のレストランの大盛りの食事が四ユーロしないし、ビールは場所によっては一ユーロもしない、すでにユーロの流通している西側諸国から来た観光客にとっては目を見張る安さだろう。
 ピルスナービールの発祥の地として有名なビールの産地チェコと同様に、スロヴァキアでもビールが人気だ。Šariš、Zlatý Bažantなど、スロヴァキア産のビールも定評があり、外国に輸出されている銘柄もある。また、ワインの産地も点在し、飲み屋で国産の安ワインを飲んでいる人の姿を普通に見かけるほど、伝統的にワインを飲む文化のある国でもある。代表的な蒸溜酒は、まずSlivovica(スリヴォヴィッツァ)という中東欧で広くつくられているプラムの蒸溜酒、そしてスロヴァキアらしい蒸溜酒と言えばBorovička(ボロヴィチカ)、ジュニパーの実からつくられる蒸溜酒で、きりっとしたジュニパーの香りが強く漂うスロヴァキア版のジンだ。ちなみにこれらの蒸溜酒の値段も、もちろんユーロ表記がある。とある安酒場の壁の値段表に、ボロビチカのショットが一九コロナ▲〇・六三ユーロとあり、一ユーロ硬貨でおつりが来てしまうのかと驚いてしまう、西欧では一ユーロ硬貨だけではコーヒーも飲めない。
 アルコール飲料ではないのだが、おもしろい飲み物は「コフォラ」、チェコスロヴァキア時代につくられたカフェイン入りのコーラのような炭酸飲料、コーラよりもややフルーティな味で、甘すぎずに飲みやすい。共産圏時代にはコカコーラやペプシコーラはコフォラの倍以上の値段だったので、コフォラが庶民の味だった。共産圏時代の炭酸飲料ブランド、今でもその人気は衰えておらず、カフェやレストランなどでは生ビールのタップの横に、コフォラのタップが並んでいて、注文するとビールと同じく、グラスになみなみと注がれて運ばれてくる。
(すずきふみえ ブダペスト在住)

月刊 酒文化2008年12月号掲載