パーティ・ホステル

 今年の夏も、ブダペストの街には、ガーデンバーや廃墟バーがオープンして大いに賑わいを見せていた。特に7区、もともと若者の集まるカフェやバーの多い地区だけど、さらに新しい廃墟バーがいくつかオープンして、ブダペストの中心部にありながら、まだ人の住んでいない建物が残っていたのかと、ちょっと驚いてしまった。7区の中心にあるクラウザール広場の通りに面した公衆トイレの壁、落書きがあったりしただけで、誰も気に留めることはなかったのだけれども、今年の夏、一面に、カラフルな地図が描かれ、飲み歩きができるように、カフェやバーの位置と名前が記してあった、それぞれの店が連携して地区を盛り上げているように感じる。
 そんな7区のナジ・ディオファ通り、大きな胡桃の木という名の通りに、一軒の廃墟バーが開店した。2階建ての、この辺りでは低く、かなり古い建物で、何年も門が閉じられたまま、人の住んでいる気配はなかった建物だった。大手の土地開発会社が買い取ったらしいが、諸事情で開発が遅れ、当面の間は、貸し出す事になったと言う、ブダペストの廃墟バーではよくある話で、廃墟バーが一ヶ所に留まらず、1、2年の短い期間だけの契約で営業する理由でもある。6月のある日、突然その門が開いたかと思ったら、すでに中庭にはバーカウンターが作られていて、何年も手入れがされていなかったのだろう、大振りな雑草の合間には、ランダムにテーブルが置かれていてた。あっという間に、人から人へ口伝に、そしてインターネットを通して、新しいバーがオープンした事は広がっていって、オープン当初から、まるで今までそこにあったかのように客が集まっていた。
 この廃墟バーが、他と違ってユニークなのは建物がホステルとして営業している事。古い建物の部屋の作りは広く、天井も高い、それらを改装して6〜16台のベッドが並ぶドミトリーが作られていて、1泊1500円ほどから泊まれる。ホステルやゲストハウスなどの安宿は、インターネットの宿泊予約サイトなどに登録されているので、泊まりたい場所や予算などに応じて、自分で選び、予約なども比較的簡単にできる。オープンしたばかりのホステルに、すでに外国から来た若者が泊まっているのも、インターネットがある時代ならではだ。このホステルは、「パーティ・ホステル」を宣伝文句にしている、ブダペスト市内には、他にも数軒、ホステルの併設されたバーがある。中庭が、一般の客も立ち寄るガーデン・バーになっているのだから、静かな環境を望む旅行者にはすすめられないけれども、市中心にあるので観光にも便利だし、近くにいくつも似たような廃墟バーあって飲み歩けるので、ブダペストを昼も夜も楽しもうという若者には、うってつけのロケーションだと言えるだろう。
(すずきふみえ:ブダペスト在住)       ■

月刊 酒文化2010年10月号掲載