ワインブームの到来

 最近、ビジネス誌や新聞などをなにかと賑やかしているワイン。そのおかげか、去年あたりから一部の人々の間でワインブームが起きています。
 実は、始めに紙面を賑やかしたのは、関税の問題でした。インドは輸入製品に、他の国と比べると、かなり高い割合の関税をかけています。輸入ワインは280%、ウイスキーやブランディーなどには500%もかかる場合があり、これに待ったをかけたのがEU(欧州連合)でした。あまりにも高いインドの関税にEUはWTOに提訴することも辞さない構えを見せています。
 もともとのワインブームの起こりは、留学や仕事などで外国に住んだ経験のある人々がワインを飲む習慣をインド国内に持ち帰った事だと言われています。元来インドの人々は好奇心が強く、新しい物が大好きな人々。関税の問題などでワインがクローズアップされるやいなや、テレビドラマや映画のシーンなどで頻繁にワインが登場するようになり、それに感化されるようにワインの人気が高まってきました。昨今のインドの好景気により、少しずつ財布の紐が緩まってきた中産階級の人たちにワインがお洒落な飲み物として受け入れられた事や、ウイスキーやブランディーのようなアルコール度数や風味が強いお酒しか知らずにお酒を忌避していた女性たちが、飲みやすいワインの存在を知り、嗜めるようになった事も、このワインブームに火をつけた要因のひとつだと言われています。
 このブームにあやかろうと、素早く動きだしたのがインドの農業関係者でした。国内産ワインの増産、ひいては、ぶどうの増産を目指し各州政府と連携を組み、このブームを支えるべくキャンペーンを始めました。
 ここデリーでは、昨年末にDSIDC(デリー州政府工業基盤整備機構)が民間業者を差し置いて、輸入・国内両ワイン900本を貯蔵でき、貯蔵庫内には温度調節用のエアーコンディションを備えたワインショップをオープンさせたばかりです。
 電気水道などの生活に欠かせない基本的なインフラ整備すら遅れているインドでは、エアーコンディションはとても貴重な物。まして、人のためではなく、ワインだけのためにエアーコンディションを使うなどという発想は、今まで全くなかったと言っても過言ではありません。それも、いつもは重い腰をなかなかあげたがらない州政府の機関が、ワインのためだけに店を作ったというのは、どれだけ画期的な出来事であるか、ご理解していただけるかと思います。
 残念ながら、輸入ワインに比べてインド産ワインの味は、とても満足できるものではありません。今の現状を考えると、国内ワイン業者を守るべく輸入ワインに高い関税をかけるのは致し方ない処置かもしれません。
 これは、ワインだけではなくインド産のお酒全般に言えることなのですが、気候の問題、技術の問題、原料の品質の問題などなど、改善される余地は大きいものと思われます。
 このインドのワインブームの風にのり、たくさんの人々にワインが親しまれるようになれば、必然的にワインの品質も改善されると思われます。ワインと言えばフランス、チリ、そして次はインドなどと言われるようになるのも、そう遠い未来の話ではないかもしれません。
(いけだみえ:フォトグラファー・ライター、ニューデリー在住)

月刊 酒文化2007年05月号掲載