ブラジルのビール事情

 ブラジルで、カシャーサ(火酒)以外に最も一般的に飲まれるのがセルベージャ(ビール)だ。日本の種類の多さには敵わないが、それでも近年は様々なビールが出ている。
 ビールは、TVコマーシャルにも欠かせない大手スポンサーが多く、「ペンギン」マークで「北極」という意味合いの「アンタルチカ(ANTARCTICA)」をはじめ、「ブラーマ(BRAHMA)」「カイゼル(KAIZER=皇帝)」「スコール(SKOL)」といった銘柄が主流。毎年2月か3月に行われるカーニバル(謝肉祭)には、必ずこれらのいずれかの商標がスポンサーとなっている。
 10年ほど前に大手メーカー同士が合併し、AMBEV(アンベビ)と呼ばれるブラジル最大の酒造会社が発足。国内で約8割のシェアを占めている。そのため、「アンタルチカ派」「ブラーマ派」などの好みがあるが、同じ工場で作られ、商標は違うものの中身は一緒といった場合も少なくない。
 ブラジルの奥地などに行くと、商標よりもそのビールがどこの水を使ってつくられたのか、ということが重要になる。ブラジル西部の南マット・グロッソ州で聞いた話では、「一番旨いビールは、水の旨いサンパウロ州のアグード(サンパウロ市から約300キロ地点)でつくられたものだ」という。しかし、水があまりきれいではないサンパウロ市内では、その理論も賛否両論に分かれる。
 ブラジルのビールは、日本のそれよりも苦味が少なく、それでいてコクがあり、サラッとして飲みやすいものが多い。価格は、BARと呼ばれる大衆飲食店で出される大瓶1本が3.5レアル〜4レアル(約170円〜200円、09年5月現在)。しかし、10年前は2レアル(100円)前後とさらに安く、コーラなどの清涼飲料水と大して値段も変わらなかった。
 少し上級のビールは、「ボヘミア」と呼ばれるリオデジャネイロ原産のものや、近年では、「オリジナル」というアンタルチカ系のものが主流。そのほか、アマゾン地域で飲まれる「セルパ」と呼ばれる種類の小瓶が美味との評判で、高級料理店には、この「セルピーニャ(セルパの小瓶の意味)」が数多く揃えられていた。
 現在は、350mlの缶ビールをはじめ、500ml入りも種類によっては出ている。また、日本では見られない250ml缶がお目見えしている。その他、最近は「ロングネッキ」と呼ばれる小瓶の種類も増え、「LIGHT」や「ノンアルコール」のものもスーパーなどでよく見かけるようになった。
 大衆飲食店のBARには、毎日のようにビールを飲む客が集まり、サッカーの主要な試合がある時には、TVを前に口角泡を飛ばす客たちで溢れかえる。特に金曜日の夜は、店内だけでなく店外の歩道上にも机や椅子が所狭しと出され、酔客でごった返す。
 店でビールを追加注文する時は「マイズ・ウマ・セルベージャ(ビール、もう1本)」と言うのだが、口で言わなくても両手の人差し指で瓶の高さを示すように形作ると、「もう1本」の意味になる。
 BARで飲むビールの特徴は、キンキンに冷えているものが多いこと。日本式に瓶の太い場所を手で握るとすぐに凍ってしまう。そのため、瓶の注ぎ口付近を親指と人差し指で持ち上げ、もう片方の指で瓶の底をなぜるようにしながら、コップに注ぐのが一般的。
 いずれにせよ、一年中暑い日が続くブラジルでは、ビーチをはじめ町のあちこちでキンキンに冷えたビールを飲むのが庶民の楽しみ。それでビールの消費量は他のアルコールに比べてダントツに多くなっている。
(おおくぼじゅんこ:サンパウロ在住)

月刊 酒文化2009年07月号掲載