ビールのCMに女性は欠かせない

 ここブラジルではビールにビキニ姿の女性の存在は欠かすことができない。どこのビールメーカーの宣伝にも妖艶な姿の女性が登場し、毎年二月か三月のカーニバル(謝肉祭)時期のTVコマーシャルには、裸同然の格好をした女性たちが画面上に溢れ、愛飲家はもちろんのこと、一般の男性たちの目を釘付けにする(南半球のため夏は一二月〜二月頃)。
 一〇年ほど前、スゴイ広告ポスターを見たことがある。それはサンタの格好で黒いロングブーツを履いた超ミニスカート姿の女性が、露わになった自分の太ももにビール瓶をはさみ、口を半開きにしたセクシーな顔付きで栓を抜いているというイミシンな写真だった。
 日本であれば女性の人権団体から訴えられそうな代物だが、「ここはブラジル」。そうした写真がBAR(大衆飲食店)の店内のそこらじゅうに貼られているが、文句を言う女性は見たことがない。なぜなら、普通の町行く女性たちも自分が「女」であることをアピールしていて、胸などまったくない三歳の幼児から七〇歳をとうに過ぎたような太った高齢者まで、浜辺をビキニで闊歩するのが当たり前の国なのだから。
 また、ブラジルでは、ビールのことを女性に例えて表現することもある。「シュラスカリア」と呼ばれる焼肉専門レストランなどで、生ビールを注文する際、ウエイターから「クラーロ、オウ、エスクーロ?(明るいものか、それとも暗いものか=金色の生ビールか、黒の生ビールか)」と聞かれることが少なくない。その時に「クラーロ」と答えてもいいのだが、金髪女性を意味する「ロイラ」と答えても、ちゃんと金色の生ビールが出てくる。つまり、金髪女性=金色のビールということが一般的に通じ、冗談の好きなお国柄と言える。
 夏にビールを飲む最高の場所と言えば、海の浜辺が挙げられるだろう。TVの宣伝よろしく、ビキニ姿を見ながらキンキンに冷えたビールを飲むのは、男性たちにとっては何とも言えない気分だろう。
 ちなみに、ポルトガル語で「キ・ブンダ」と言うと、「何とすごい、お尻だ」の意味となる。女性のビキニ姿を見ながらビールを飲み、「あー、いい気分だ(キ・ブンダ)」などと言うと、自分の姿を見られることを好むブラジル人女性から微笑まれることもあるかも知れない。
 それはさておき、ブラジルの浜辺でビールを注文すると、「缶」を出されることが多い。これは、瓶は割れて危険なためだという話をブラジル人に聞いたことがある。「裸足で歩く浜辺では、缶も危険なのでは」との質問もあるだろうが、「ここはブラジル」。特に、リオデジャネイロのコパカバーナ・ビーチなどの観光地では、飲み終わった缶は、地元の低所得者層の高齢者や子供たちが、嫌でも回収しに来る。浜辺に転がるアルミ缶を回収して、生活の糧にしている人も少なくないため、缶で足を傷つけることはほとんどない。生活苦から発するリサイクルなのだが、このリサイクル率には目を見張るものがある。(おおくぼじゅんこ・サンパウロ在住)

月刊 酒文化2009年09月号掲載