自由の象徴を冠すフランスの酒

 なにやらメダルのようなデザインの印章。このCRD(Capsule Représentative de Droit)は、権利を代理証明する王冠、という名で、経済財政省の関税間接税総局D.G.D.D.I.によって管理されている。国内で生産され、商品として国内に流通する権利を持つ3L以下の瓶に必須の印章なのだ。
 丸いサークルの中に描いてある女性の横顔は、フランス共和国の「自由の象徴」のマリアンヌ。ドラクロワが七月革命を描いた「民衆を導く自由の女神」という名画に登場する、赤い三角のフリジア帽をかぶって国旗を持っている女性の記憶がお有りだろう。
 マリアンヌの周りに表示しなければならないのは、République FrançaiseD.G.D.D.I.(フランス共和国関税間接税総局)の文字、そして「75 cl」などと酒の容量。外側、色のサークル部分に白抜きで書かれる文字や数字は、瓶詰め過程と場所を語る。写真のCDRには、"89-R-85"の最初の二桁89は、瓶詰めした会社(ワイン製造社とは限らない)の本社の所在地がある地方の番号だ。この89はヨンヌ県、ブルゴーニュ地方北西部だということが解る。その次のアルファベット"R"は、RécoltantレコルタントのR。写真のCRDのようにRécoltantと単語が書かれてあるものもあり、生産者元詰めワインであることを示す。"N"あるいは"Non récoltant"もあり、農家以外で瓶詰めされた、例えば畑は持たずにワインを買いつけ、自社のセラーで熟成させたワインを売るワイン商、ネゴシアン(Négociant)の場合である。"E"は契約倉庫会社(Entrepositaire Agrée)で瓶詰めされたもの。その次の数字はCRD登録行政地区番号だ。
 印刷する大きさの規制、色(パントーン番号で)も中身によって決められている。赤はほとんどのワインに使う。グリーンは、アルコール度が一五度を越えないもの、あるいはAOC格付の発泡酒、特にシャンパーニュは、"Champagne"と文字表示が必要で、AOC格付の自然甘口ワインは、"VDN"の文字表示がサークル部分に必要になる。その他のワインに使われるのはブルーで、「税制的にワインのように果実を発酵させて醸造したワインのような飲料」も、この色を使う。その場合、"BFAV"の文字表示がサークル部分にされる。ノルマンディ地方のポモー、ジュラ地方のマックヴァンなどは、その他のAOCのお酒というカテゴリーで"VDN"の文字表示とともに、オレンジ色が使用される。
 瓶の金属部分にこのCRDを印刷する政府公認の会社へは、その注文段階から関税間接税総局への登録が必要で、出荷数と共にCRDの在庫管理もされるという。これらは、間接税の徴収のほか、偽ワイン、闇ワインなどが市場に出回るのを防ぎ、流通量を把握する役目も果たすことになっているのだが、それでも、偽フランスワインの発覚ニュースを聞く。しかも、フランス国外で発見された話を、だ。フランスの「自由の象徴」を冠しない酒が、国外の闇市場で「自由」に流通する、という皮肉な例になっている。
(ともこふれでりっくす・パリ在住)
2014年特別号上 掲載

月刊 酒文化2014年06月号掲載