燗にしたにごり酒の経験者は7%

 一般的ににごり酒や吟醸酒は冷やして飲むもので、あまり燗にして飲まない。最近では吟醸酒の一部は燗にしてもおいしいということが広まり、ようやく経験者も増えてきたが、にごり酒となるとほとんどいないのではないかと思う。かく言う私自身、にごり酒をすすんで燗したことはなかった。だが、これは飲まず嫌いであった。昨年の燗酒コンテストでにごり酒の燗を改めて体験したのであるが、これが予想以上においしかった。
 その後、他のにごり酒でも試す機会があったが、そのときはさほど燗にしたおいしさを感じることはできなかった。どうやらにごり酒の中でも燗に向いているものと、そうでないものがあるようだ。
 吟醸酒の燗もかつては、香りが分かりにくくなるからもったいないことをするなと言う人が多かったから、これは冷やしたほうがうまいという常識があっても、それにとらわれずに燗にすると別のおいしさを感じる日本酒はあるということである。
 では、にごり酒は燗でどの程度飲まれているのか。「にごり酒を燗にしたことがありますか?」という質問に対しては、「YES」の回答はわずか7%しかなかった(図表1)。予想通りである。数少ない経験者のうち8割強が男性、年代は分散しているものの、60代以上の飲酒キャリアのある人が比較的多い。また飲酒頻度も5日以上のヘビーユーザーが多く、日本酒好きの人の一部が試したことがあるということがうかがえる。
 経験者の感想から目立つのは「飲みやすい」という言葉。具体的な意見をあげてみる。
「熱燗ではなくて、ぬるめの燗にして飲んでみました。主人と二人で飲んだのですが、二人とも甘さが深くなったというのが感想です。飲んだあとの余韻が冷で飲むときとはまた違いますね。冬はどうしても冷たい酒よりも燗のお酒がおいしいと感じます」(女性40代)
「千歳鶴のにごり酒を燗にしたことがあります。香りがとても強くて、においだけで酔いそうになりましたが、とてもさっぱりしていて後味も良かったです」(男性40代)
「飲みやすくなり、飲みすぎるように感じた」(女性60代以上)
「大分県内の白髭神社のどぶろく祭りに参拝して頂いたどぶろくを燗にしました。昔どこかで飲んだようななつかしい味でした」(男性60代以上)
「韓国の真露マッコリを温めて飲んでみたが、甘酸っぱい。日本のどぶろくより飲みやすい」(男性60代以上)
 「やっぱり冷やしたほうが味わいがある」(男性60代以上)というマイナスの記述したのはわずかに1名だけであった。
 次に「にごり酒や吟醸酒、生酒など一般には冷たくして飲まれる日本酒を燗にして飲みたいと思いますか?」と聞くと、「YES」は31%であった。飲用意向者は男性(27%)より女性(37%)のほうが多い。若い年代ほど飲用意向が高まる傾向が見られるが、その一方で60代以上も結構高い。若いほど好奇心も強く、先入観なく、お酒もいろいろな飲み方を試してみたいという気持ちがあるのであろう。高齢層にも多いのは飲酒キャリアも長く、多種多様な酒との出会いがあったが、まだ試したことのない飲み方に興味を持ったのかもしれない(図表2)。
 ちなみに、前述のにごり酒を燗にしたことのあると回答した人の飲用意向は半々。今後の意向のない人は、一度はやってみたものの、あまりよい結果を得られなかったので、わざわざ試すまでもないという考えなのであろう。

燗にする人はチャレンジ精神旺盛

 にごり酒を燗にしたいと思うときは、ふつうの燗と同様、心身ともに温まりたいときという意見が多かったが、今までと違う新しい飲み方をしてみたい、日本酒の新たなおいしさを発見したいというチャレンジャーの心境を語っている人も目立つ。
「飲みたいと思う時は、身も心も温まりたい時です。マッコリなんかも試してみたいです」(女性30代)
「燗にして飲んだことはこれまでなかったのですが、試みに一度は試してみたいと思います。飲んでみたい銘柄はフルーティな五郎八など」(女性50代)
「寒い外から帰ってきた最初の一杯は温かいのがいいですね。ワインや韓国のマッコリも普通冷たくして飲むものですが、ホットも案外おいしいです。にごり酒もあったかいとまた違ったおいしさを楽しめそうです」(女性40代)
「にごり酒を燗に…、という発想は今までなかったので、寒い夜にでも試してみようと思います」(男性60代以上)
「気分転換時に飲んでみたい」(男性60代以上)
「餃子を食べながら韓国のマッコリを燗にしてもいいかも」(男性60代以上)
 最後に、燗の有無にかかわらず、にごり酒を飲みたいと思うときについて意見をいくつか紹介する。
「とても元気で、これからあびるほど飲むぞ! というとき。いろいろなお酒を試したいと思うのですが、にごり酒はダラダラと長時間飲んでみたい感じです」(女性30代)
「料理によって飲みわけています。鍋や天ぷら等料理に味があるもの濃いものは純米酒や吟醸酒、お刺身やあっさりとした料理の時にはにごり酒を飲みたいと思います」(女性40代)
「神事やハレの日のような気分の時」(男性40代)
「お雛祭のときとか春先に飲みたいと思います。銘柄はあまり知らないのでこだわらないのですが、純米酒であることが絶対条件です」(女性50代)
 にごり酒や吟醸酒などを燗にするなど、新しい味わいを試してみたいというニーズはそこそこある。日本酒も新しい飲み方を提案していくことで、新規需要を生み出す余地はまだあると、意を強くした。(狩野卓也)■

2011年02月実施