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酒は人々の暮らしに幸せをもたらすもの。人をつなぎ、食卓を盛り上げ、心を豊かにする。さまざまな分野の専門家が現代の酒シーンを読み解くプレミアムトーク。第1回は狩野卓也(株式会社酒文化研究所 代表)が転換期を迎えた日本のビール消費のトレンドを解説する。
■ビールの味わいは「すっきり飲みやすく」
発泡酒や新ジャンルなどのビアテイスト飲料を含めた日本のビールは、苦い大人の味の飲み物からすっきり爽やかな味わいの飲み物に姿を変えてきました。私が酒を飲み始めたのは1980年前後ですが、当時、ビールは苦いもので、苦さに慣れておいしく感じるようになったら一人前と誰もが思っていたと思います。
その後、1984年頃に焼酎に果汁を足してソーダで割ったチューハイが一大ブームになります。それまで冷たくて炭酸がきいた爽快な酒はビールだけだったのですが、苦くないすっきりしたチューハイが出てきて、しかも甘くて酒が初めてでも飲みやすいフレーバーが用意されました。この時に戦後一貫して増加してきたビール消費量は足踏みします。
ビールはこの停滞を打ち破って再び成長軌道に乗るのですが、それはスーパードライに代表される「すっきり飲みやすいビール」への転換によってなされました。苦みはどんどん少なくなり、強く冷やして喉越しを楽しむように変わっていきました。今、大手ビールメーカーの商品に強い苦みをもったものはほとんどありません。サッポロラガービールくらいのものではないでしょうか。キリンラガーが苦いと言われますが、言われているほど苦くはありません。
ビールの味のこうした変化は別の見方をすると、どのビールも似たような味になっていくということでもあります。すっきり飲みやすくするには、苦みを無くすだけでなく、味わい全般をあっさり軽くします。名前やイメージは違えども味は同じようなものが増えていきます。
■「すっきり飲みやすく」が準備したプレミアムビール市場
ここで初めてビールにグレードの軸が出る土壌ができました。すっきり同じような味になっていたビール市場に、飲みごたえがあって香りの高いビール、他とははっきりと違うザ・プレミアム・モルツが登場して消費者に支持されたのです。
もちろんこの前に節税商品である発泡酒や新ジャンルといわれるビアテイスト飲料の拡大がありました。日本のビール市場は長く横並びでグレード軸はありませんでしたが、景気の低迷とデフレの進行を背景に、15年くらい前から急拡大したこの割安なビールテイストのカテゴリーは、またたく間にふだん家庭で飲むビールの主役になりました。そして味わいの「すっきり飲みやすく」化に拍車をかけました。
意図せずに「ビール」は高級品に押し上げられてしまい、明確にプレミアムであることを強調した商品の存在価値が増します。そしてプレミアムモルツは、プレミアムビールの代名詞となり急成長を遂げます。
■プレミアムビールで「ハッピー」が大きく
人々がビールをグレードでも見るようになると、TPOに応じてビールを飲み分けることが当たり前になりました。家庭では安価なビアテイスト飲料、外(飲食店)ではビールとなりましたし、週末はプレミアムビールというのもそうです。
プレミアムビールは日本航空が国内線に導入した『クラスJ』(エコノミーよりも1000円高いだけで豪華なシートに座れるシート)によく似ていると思います。わずかな値段の違いですが、体感できる心地よさ、他者からの羨望の眼差しなど、満足感は価格差以上のものがあります。
ふだんは新ジャンルを買っているけれど、時々プレミアムビールにすると気分がいい。家族の記念日の食卓に用意するだけでちょっと特別な感じになる、仲間とバーベキューやお花見をする時あるいは手土産に持参すると予想以上によろこばれるなど、それほど大きな価格差ではありませんが、プレミアムビールにすることで場の高揚感はぐっと増します。プレミアムビールが登場する前と後では、起伏が大きくなりハッピーの度合いが増したのではないでしょうか。 |
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