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ボルドー・メドック地区で「グランクリュ3級」に格付けされる名門ワイナリー「シャトー・ラグランジュ」。サントリーがこのシャトーの経営に乗り出したのは1983年のことでした。前オーナーの時代に荒れてしまっていたブドウ畑とワインづくりの復活に取り組み、著しい品質の向上に成功します。今回は2004年に副会長に着任して以来、躍進をリードしてきた椎名敬一さんに、目指すワインのスタイルとそれを実現するために積み上げてきた取り組みをうかがいました。
■過去最高の偉大な年「2016年」
今年(2017年)の6月23日、ボルドーは気温が40℃に迫る猛暑。刺すような日差しを受けつつ、シャトー・ラグランジュに椎名さんを訪ねました。そして、同シャトーにとってこれまででもっとも偉大な年となった2016年のワインを一緒に試飲します。春のプリムール(熟成途中のワインを試飲して先物買いをする商談会)では、ワイン商やジャーナリストを唸らせ、注文が殺到したワインです。
「これは2016年のセカンド(二番手のワイン)です。セカンドとは思えない凝縮感、樽熟成中のこの時期はまだ若くギシギシするところがあるものですが、タンニンの旨味が出ています。2009年に近いけれど、それよりももっと厚みがある。セカンドは奥行きが足りなかったり、味が細かったりするものですが、これはそんなこともなく、非常に珍しい。
昨年の秋はブドウを完熟させるためにギリギリまで待って、特にカベルネ・ソーヴィニョン種は10月17日に収穫を始めました。ふつうなら終わっている時期です。まわりのワイナリーでもほとんど終えていました。収穫を遅らせることは、その間に天候が崩れるなどの不測の事態でブドウがダメージを受ける可能性もあり、リスクを伴います。それでも私たちは、リスクをとってもよいものを追求するという方針を徹底しており、そこまで待つことができました」と椎名さん。
たしかに味わいは見事で、発売は数年先になるワインが、この時点で力強さと繊細さを兼ね備えていました。「セカンドで十分おいしいですね」と言おうとしたのを見透かしたかのように、椎名さんは同じ年のシャトー(一番手)の試飲をすすめます。
「シャトーはさらにいいです。セカンドで十分と思ったのにもっと上があったとお感じになると思います。いちばんの違いは品格で、酸があって肉厚でフィニッシュも長い。酸を感じさせないような旨味が溢れて、カベルネ・ソーヴィニョン種が完熟したらこうなるとおわかりいただけるのではないでしょうか。この味わいこそテロワールの産物です」
続けて2012年、2008年のヴィンテージと飲み比べていき、年ごとに異なるブドウ品種の割合が話題になりました。毎年の配合比率の一覧表を見ながら、ある年はメルロー種の割合が高く、近年はカベルネ種が上がってきているように思ったからです。
「ボルドーのワインは、品種ごとにつくったワインをアッサンブラージュ(ブレンド)して理想の味わいをつくりあげます。その年にできたワインを畑の区画ごとに試飲してシャトーとして相応しいかどうかを吟味していった結果、カベルネ・ソーヴィニョン種が多かったり、メルロー種が多かったりするのです。品種をどういう比率にしようかとはじめから考えているわけではありません。この30年間の『シャトー・ラグランジュ』には、時期によって大きく3つのタイプがあります。1980年代のものは前オーナー時代に植えられていたブドウでつくりました。カベルネ・ソーヴィニョン種とメルロー種が半分ずつ植えられていたので、カベルネ種の比率を上げることができませんでした。1990年から2005年くらいまでは、メルロー種が多いために味わいの骨格が弱いところを、プティ・ヴェルド種を10%〜15%くらい入れて補っていました。ワインづくりでは、いいブドウが収穫できるようになるまでに植えてから20〜30年かかります。2000年半ば以降にようやくサントリーが植えたブドウがいい時期を迎えて、カベルネ・ソーヴィニョン種の比率を上げられるようになってきたのです」
■ブドウ畑区画の更なる細分化と再編
荒れていた名門シャトーの再生にはなにが必要だったのでしょうか。ボルドー・メドック公式のシャトーの格付けの大元は、ワインにしておいしいブドウができる畑であるという評価です。ボルドーでは土地や風土、その年の気候条件などをワインに反映させるために、極度の乾燥でもブドウに水をやったり、土壌を改良したりすることは禁じられています。格付けはその土地のブドウ畑としてのポテンシャルの高さを証明するものです。畑の特長を見極めて、合ったブドウ品種を選び、適切に栽培すれば、品質は向上し優れたワインが生まれるようになります。
椎名さんがシャトーを案内する際に、最初に畑の区画について説明したのは当然のことなのでした。
「これはこのシャトーを上から見た写真です。現在はブドウ畑を100以上の区画に分けて管理しています。白っぽく見えるところは乾燥しやすい砂礫質、茶色っぽいところは粘土質など水分の多いところです。土壌だけでなく傾斜や日当たりなどでブドウのできは変わってきます。なかには同じ区画内でも北側はシャトーものに使えるブドウがとれるのに、南側はセカンドにしかならないところもあります。見た目は同じ、土壌成分も変わらないのですが、ブドウを食べてみるとはっきりと違いが出るのです。従来はこうした細かな差異は、経験的に知るしかありませんでしたが、技術が進みメカニズムが見えるようになってきました。地下2mの層まで電流を流して分析したところ、北側と南側で地下の水分の状態がはっきり違っていました。さらにボーリングして実際に掘って地下の状態を探り、どこに土地の質の境界線があるのかを把握して、区画を細分化する作業を続けています。土地の特長がわかれば、何を植えてどう育てるかも考えやすくなります。土地のポテンシャルを引き出すために30年以上、ずっとこんな地道な作業を積み上げて来ました」と説明を受けた後、実際にブドウ畑を見ます。
「先ほど白く見えた乾燥した区画はこんな感じで、4m〜5m下まで砂礫質、場所によっては表面は石ころばかりです。ピレネー山脈やドルドーニュ渓谷などから運ばれてきた土砂が堆積し、丘の高いところには重い石が残り、低いところには洗い流された粘土や砂が堆積しました。シャトーでいちばん高い丘は標高24m、低いと5m〜10mです。畑に認められない低地では、掘ればすぐに水に届きます。畑が丘の上だけなのは、ブドウが水を求めて深く根を伸ばさざるを得ないような、過酷な条件のところでいいブドウができるからです。
ブドウの木の仕立て方もボルドーの一般的なスタイルとは少し違います。多くは樹高90cmくらいに栽培しますが、私たちは125cmくらい。これには理由があって、ブドウの実の周辺の風通しを良くして病気を防ぎ、さらに実にも光を当てて光合成をさせるために6月くらいに実の上の葉を取り除く作業をします。あまり陽を当てすぎるとブドウが焼けてしまうので、南側だけ残すなど細かい作業です。この時に樹高が低いと葉の枚数が不足してしまいます。高くすることで葉域を上にとることができ、ブドウが完熟しやすくなります」
■ボルドーに合ったブドウ品種
ボルドーで主に使うブドウ品種は、赤ワインになる黒ブドウ5品種(カベルネ・ソーヴィニョン種、メルロー種、カベルネ・フラン種、プティ・ヴェルド種、マルベック種)と、白ブドウ4品種(ソーヴィニョン・ブラン種、ミュスカデル種、セミヨン種、ソーヴィニョン・グリ種)です。他の品種を植えることもできますが、原産地呼称ワインには使えません。ワインづくりの長い歴史のなかで、それぞれの土地に合ったブドウ品種が選抜され、残ってきたのです。各シャトーはこのなかからどの畑に何を植えるかを選びます。シャトー・ラグランジュではカベルネ・ソーヴィニョン種を中心に、粘土質の土壌ではメルロー種、そして少量のプティ・ヴェルド種が植えられていました。
あえて「フランスの白ワインといえばシャルドネ種を思い浮かべますが、こちらではやらないのですか?」質問すると、椎名さんは「つくろうと思えばできると思いますが、ブルゴーニュのようなエレガントなものにはならないでしょう。適地は長い淘汰の歴史が明確に示しています。産地を名乗れなくなりますし、やりません」ときっぱり。
近年は温暖化によりブドウ品種の栽培適地が変化していると言われます。温暖化の影響をお聞きすると、「ボルドーのカベルネ・ソーヴィニョン種にとって、温暖化はポジティブに作用していると思います。完熟しにくい品種で、10年に2、3回しか完熟しなかったものが、最近は半分以上完熟するようになりました。一方でメルロー種の糖度の上がりすぎを懸念する声も出ています」。
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