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複雑な香味をもつ酒はグラスによってさまざまな表情を見せます。それはワイン、ウイスキー、ビール、日本酒など酒の種類を問いません。今回は、酒のポテンシャルを引きだし存分に楽しめるグラスの選び方を、ワイングラスの専門家である庄司大輔さん(RSN Japan株式会社:グラスエデュケイター)にうかがいます。
プロフィール
国内でフレンチレストラン勤務を経て渡仏、ワイナリーでワインづくりを半年間体験し、帰国後、2000年にリーデル・ジャパン株式会社(現RSN Japan株式会社)に入社。以来、グラスの形状が飲み物の印象を大きく左右することをグラステイスティングを通じて啓発するチーフ・グラスエデュケイターとして活躍している。
■ワインがグラスを選ぶ
―― こんにちは。庄司さんには弊社が運営する「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」で初年度から審査員としてご協力いただいていますが、こうしてあらためてお話をうかがうのは初めてです。今日は酒とグラスの組み合わせの妙についてうかがいたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。
庄司さんが携わっていらっしゃるリーデルグラスはさまざまな形やサイズがあり、産地やブドウ品種によって異なるワインの個性を生かすグラスづくりで知られています。最初にワインにピッタリのグラスを決めていくプロセスをお聞きしたいのですが、スタートは白ワインには小ぶりなグラス、赤には大きく膨らみのあるグラスという定石から出発するのでしょうか?
庄司 セオリーはありますが、たくさんの種類のグラスで生産者に飲み比べていただき、先入観なく「このブドウの品種にはこのグラス」というものを探していきます。こちらが選ぶというよりもワインがグラスを選ぶと言っても良いかもしれません。
白ワインの多くは白ブドウの果汁を搾ってつくります。渋みや苦みが少なくスッキリした酸があるので、冷やしたほうがおいしく感じます。それをいろいろなグラスで飲んでみると結果的に小ぶりなグラスが選ばれる傾向にあるようです。冷えていると香りも控えめになりますから、あまり大きなグラスですとボウルのなかが香りで満たされません。下のほうに溜まっていて飲む時に香りが足りない感じがします。でも、小ぶりなグラスなら冷えたワインでも香りが満たされて、ワインのよさを十分に引き出して心地よく飲むことができます。反対に果皮まで使う赤ワインには渋みや苦みがあり、香りも複雑で豊かですからあまり冷やさないほうがおいしく感じます。香りも立つので大きなグラスが選ばれる傾向はあるでしょう。
―― そうしたグラスについての知見はどのように伝えられてきたのでしょうか。
庄司 私が入社した15年前はほとんど口伝に近く、社長のアンギャルと一緒にやりながら身につけました。おそらくアンギャルもオーストリアのリーデル本社とやり取りしながら知識を習得し、経験を積んでいったと思います。今では新入社員に、基本的なことはこれを読んでおくようにと言えるくらい情報が整理されてきていますが、最近のことです。
アンギャルが日本にリーデルグラスを紹介し始めた1989年頃は、ちょうどグルメが立ちあがり始めた頃でした。サイズも違うさまざまな形のワイングラスを大きなアタッシュケースに詰めて、有名シェフを訪ねて歩いたそうです。クイーン・アリスの石鍋裕シェフ、リストランテ・アルポルトの片岡護シェフなどそうそうたる方々が「リーデルで初めてグラスでワインの味が変わることを勉強させてもらった」とおっしゃいます。それまで日本のレストランでは、ワイングラスと言ったら赤、白、スパークリング用のフルートグラスの3種類あればよいという時代でした。
■個性が際立つ「かたち」
―― 産地やブドウ品種によって個性が生きるグラスを選ぶといったとき、基準になるワインをどのように決めているのでしょう。産地内にもさまざまなワインがありますし、同じ品種でも香味の幅は広く、基準にするワイン次第で選ばれるグラスもまったく違ったものになりそうです。
庄司 意外に思われるかもしれませんが、リーデル社が「ターゲットとなるブドウ品種のスタンダードと言えるワインはこのワインだ」と決めることはありません。ワインのつくり手の方々から「自分たちのワインの特徴が出るグラスを選びたい」という要請があって、プロジェクトが走り始めます。狙いはワインの特徴を上手に表現するグラスを選ぶことで、つくり手の思いと飲み手をつなぐことです。
たとえばピノ・ノワール種用のワイングラスはもともとはブルゴーニュ地方のワインで開発されましたが、アメリカ・オレゴン州のピノ・ノワール種のワイン生産者たちは自分たちのワインの特徴を最良の状態で楽しんでもらえるグラスを探したいと考え、リーデル社に依頼しました。そこから新しいグラスの開発が始まり、まず既存のものからいくつか候補を選んで、グラスの飲み口のカット位置を変えたり、くびれをつくったりしてプロトタイプをつくりました。最終的に決まったのが飲み口に1cmほどの煙突形が加えられたグラスで、今ではニューワールド・ピノ・ノワール用のグラスとしてラインナップされています。
―― 1cmの煙突形にのびた飲み口で何が違ってくるのですか?
庄司 煙突形の飲み口があることでグラスの内から口中へのワインの流れにワンクッションおかれて、より少量にコントロールされたワインがゆっくりと舌先へ導かれます。煙突形の飲み口はリーデルではほかにコニャックやアクアヴィットグラスにも採用されていて、アルコール度数の高いもので選ばれる傾向があります。
―― マーケットの好みや技術革新などでもワインの味わいは変わります。日本の甲州種のワインなどは10年前とまったく違うスタイルになりました。
庄司 おしゃるとおりです。今はベストマッチとしているグラスがあっても、ワイン自体のスタイルが変化してゆけば、それに伴って最適なグラス形状も変わってゆく可能性は十分にあり得ます。栽培や醸造の仕方は日進月歩で、産地の気候も変動し、土壌を改善することもありますから。
―― おもしろい形で、グラスの下のほう、ちょうど握る部分が太くなったものがありますね。あれはどういう意味があるのでしょうか?
庄司 IPA(インディアン・ペール・エール)スタイル用のビールのグラスのことですね。グループブランド・シュピゲラウでは、リーデルのグラス開発のノウハウを採り入れ、ブルワリーとのワークショップを経てビールのスタイル別グラスの開発が始まっています。特徴的な形状によってビールを飲み進めていくと、泡がリチャージされるとともにIPAの個性であるホッピーな香りがしっかりと感じられ、強い苦みをやわらげてくれるのです。 |
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