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超高齢化社会を前に日本ではバリアフリー化が進められています。2006年にバリアフリー法が施行されてから、公共交通機関にはエレベーターやホームドアが整備され、小さな子供連れの人や高齢者、車いすの方もスムーズに利用できるようになってきました。
公共施設にはユニバーサルトイレが設けられ、宿泊施設には障害者が利用できる部屋が確保されています。制約のある方の移動や宿泊は、以前より容易になりつつあります。
では飲食の場はどうでしょうか。入口に段差があったり、トイレが狭く車いすでの利用が難しかったり、バリアフリー化はまだ十分ではありません。
本稿は障害者が楽しめる酒場を増やすために何が必要なのかを、アルペンスキー日本代表としてパラリンピックでご活躍された大日方邦子さんのインタビューと、バリアフリー化に取り組む料飲店の事例から考えます。
■設備と心、二つのバリアフリー
−− わたくしども酒文化研究所では、酒の文化や消費をさまざまな角度から取り上げてきたのですが、障害者の酒について考えたことはありませんでした。ダイバーシティ(多様性)やバリアフリーという言葉はよく耳にします。しかしながら身近な問題として捉えられず見過ごしてきたというのが正直なところです。でも、障害者にもお酒がお好きな方は大勢いらっしゃると思います。今日はそうした方ーも楽しく過ごせる酒場を増やすために、何をどうしたらよいか、お考えをお聞かせいただきたいと思います。
大日方 このテーマに関心を持っていただきありがとうございます。インタビューのお話をいただいた時、ちょうどイギリス人の友人から日本での飲食について聞かれた後だったこともあり、飲食店はもっと変わりうるという意味で、いい視点だなあと思いました。友人は車いすの利用者で、健常者の時に日本に住んだ経験もあります。彼女の当時の記憶では、日本では車いすでは電車に乗れないだろうし、レストランで食事もできないのではないか、あなたはどうしているのと聞くのですね。私は公共交通や宿泊施設はバリアフリー化が進んできているから大丈夫と答えたのですが、飲食店はケースバイケース、ダメな店ばかりではないのでチャレンジしてみてと返事をしました。
最初に現在のバリアフリー化の進め方の概略をお話ししますと、バリアフリーには設備面と心の面の二つがあり、これらを車の両輪と考えて、同時に進めることが必要です。エレベーターの設置や段差の解消などハードの面での整備と、おもてなしや気遣いの部分という意味です。これまで関連団体や行政と連携して取り組んできましたが、交通機関と宿泊については法律の整備や助成金などの枠組みで成果をあげることができました。しかし大日方さんはパラリピアンとして、障害者が活躍できる社会づくりにさまざまな立場で尽力しているご指摘の飲食の部分はこの枠組みではなかなか進みません。法規制の対象になる大型の商業施設に出店しているお店はいいのですけれど、路面や雑居ビルで営業している個人店を動かすのはとても難しい。まずは、お店の方にこういうお客もいるのだと意識を変えていただき、バリアフリー化は障害者を顧客化する取り組みだとご理解いただくのが第一歩になります。
■事実を示し、判断は利用者に
−− 車いすでの来店を受け入れられる店はそんなに少ないのですか?
大日方 来店を断られることはほとんどなく、お店と利用者双方が工夫して何とかしているという感じなのですけれど、行きたいと思った店が車いすで利用できるかどうかを判断するための情報がありません。行きたいお店があると私の場合はグーグルアースでお店を探します。店のある建物が3〜4階建てだったらエレベーターはないだろうとか、7階建てならさすがにあるだろうとか考える。入口をズームアップして道路から段差がないかをチェックする。正面の入口とは別にスロープになった搬入口があることもあるので、ビルの裏側も確認する。こんな風に結構な負荷がかかっています。
−− なるほど。お店に電話で聞けば早そうですが、そうでもない……。
大日方 電話で「お店はバリアフリーですか?」と聞くと、まず「残念ながら……」と返ってきます。通路やトイレを完全に車いすで使えるようにするのは、大型の商業施設にでも入っていない限り難しい。なので、道路から入口までに段差はありますか? エレベーターは? エレベーターまでに階段はありますか? など自分がその店を利用できるかどうかを判断するために必要なことを整理して確認します。
現在の料飲店の検索サービスではこうした情報が得られないので、そこからお店のホームページに飛ぶと、入口、席、通路、トイレの様子などが写真で見られるようになっていると嬉しいですね。お店が障害者が利用できるかどうかを判断するのではなく、ファクトを示して利用する側に判断を任せるのがいいと思います。
−− 写真で見られるのはいいですね。私どももイベントで大量のお酒を会場に搬入することがありますが、ビルの入口に階段があると台車のまま入れず荷物を手運びすることになります。スロープがあっても角度が急で荷崩れしそうになったり、折り返しに溜まりがなくて台車の向きを変えられなかったり、台車が使えないとものすごくたいへんです。
大日方 とてもよくわかります。車いすと同じですね。
■サービスを向上させる心のバリアフリー
−− 心のバリアフリーは具体的にはどんなことなのでしょう。
大日方 例えば視覚障害の方に対して、お水をサービスする時に「こちらにお水を置きますね」と言葉を添えてもらうといいのです。
無言でそっと水を置かれると、目が不自由な方はそれがわかりませんから、コップを倒してしまったり、ずっと気づかなかったりする。そうすると一緒に食事をしている私たちが、会話を止めて「お水が来たよ」と言わなければなりません。白杖をついていれば視覚に障害があることはわかるのですから、そういう気配りはできるはずです。年配の方で首を傾けてメニューを見ていたら、片目がご不自由とか視野狭窄であることが多いので、同じように気遣いしてあげるといいと思います。
こうしたお客様が必要としていることに気づく能力はサービスの向上にもつながるはずですが、私たちがお店の経営者に直接お話しする機会は多くありません。マナーアップや接客の研修に組み込んでいただけると嬉しいです。パラリンピックを来年に控えた今はいいタイミング、障害者と接する機会が増えるので、経験を積んで浸透させられるのではないでしょうか
−− 片目の視力がなく左半身が不自由な友人は、お店で小さな段差があるたびに逐次言ってもらえるのは助かると言っていました。間接照明で暗くしているお店は、足元が見にくく段差がとても怖いそうです。階段の手すりも両側についているのがベストで、降りるときに麻痺した側にしか手すりがない店は自分では選ばないとも。
大日方 よくわかります。視覚障害にはまったく見えない方から、少し見える方などもいろいろあって、メニューにも改善できるところがあります。この冊子(弊誌)の文字は明るい部屋でしたら見えますが、少し暗いと見にくい。弱視の人にも見やすいユニバーサルフォントは線が太い。文字は色調を濃く、できるだけ大きくすると老眼の人にも見やすくなります。
説明の文章も読み上げたときのわかりやすさを意識していただきたいです。視覚障害の方と一緒に食事をする時にはメニューを読み上げますから。イタリアンレストランでタリアテッレと書かれていても普通の人にはわかりません。五o幅の平打ち麺と説明があれば伝えやすいのですね。〇〇産の春の一品のようなのも困る。具体的に書いてサッとわかるようにして欲しい。
バリアフリーは、ユニバーサルトイレにするとか通路の幅を広げるとか大掛かりなことばかりではなく、顧客サービスのレベルを高めることで改善し、皆が料理とお酒と会話を楽しめる場にできると思います。
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